”営業時間を過ぎたら”『午後8時の訪問者』


『午後8時の訪問者』監督メッセージつき予告

 ダルデンヌ兄弟監督作!

 午後8時に鳴った診療所のドアベル。だが、当直のジェニーは営業時間を過ぎていたのでそれを無視。だが、翌日、ベルを鳴らした少女が遺体で発見される。監視カメラに助けを求める姿が映っていたのを見たジェニーは、名前も知らない少女の足取りを追い始める。

 カンヌでは微妙に不評だったというこの映画。まあ確かに、『少年と自転車』に『サンドラの週末』と比べてもさらに地味だったな……。

chateaudif.hatenadiary.com
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 場末の診療所で働く主人公、不器用そうな研修医に怒り、閉院時間を過ぎて鳴らされたインターホンを無視しろと命令。こんな時間にくるやつが悪い、もっと割り切れ、とお説教。よくある歪んだ正論という感じで、こういうのは絶対に人の心を打つことはないわね。そして、この時インターホンを押していた少女が、翌朝に死体となって発見されたのであった。

 殺人事件はもちろん、医者の領分ではないのだけれど、目の前の人を救えず、そもそも手を差し伸べもしなかった上に、偉そうに説教かましていた事実は消えず、密かに事件の真相を追い求めることに。
 一応、ミステリ的な構図になるのだが、捜査(?)は足を使った地味なもので、特段意外な真相やトリックが隠されているわけではない。主人公は大手病院への転職も決まっていたのだが、罪の意識からそれも蹴って、診療所に居残って被害者の足取りを追い続ける。

 スコア一切なしで、環境音だけで淡々と展開する、まさに砂を噛むような地味さ。医療の場面でも、事件の捜査でもひたすらに対症療法に明け暮れる、まったく華のない地味な姿……。だがまあ、これこそが医者の本分である、と描き続ける。

 深さ2mの穴からは自力では脱出できない、という大変に地味なアクションシーンなどもあり、地味というかリアルの極みまで行っている感じで、全体としては大変な力作なのだろうが、個々のシーンはなかなか印象に残りづらい。が、ボタンの落ちた小さな音を拾って、ここからは「音」が重要ですよ、と印象付けてくるクライマックスは、なかなか見応えがありましたね。

 市井の人々の姿と社会問題、そしてそこに対峙する者の矜持というテーマはまたも貫かれていて、地味ながらも良作でありましたよ。