”紅蓮の塔”『バーニング・オーシャン』


『バーニング・オーシャン』本予告

 ピーター・バーグ監督作!

 メキシコ湾沖80キロ、ディープウォーター・ホライゾン。安全上の懸念から掘削テストも終わらず、採掘が停止中だったが、工期の遅れと採算を理由に、石油会社の幹部が再開を迫る。だが、つかの間、安全かと思われた直後、異様な警報音が鳴り響き……。

 マーク・ウォールバーグ主演で『ローン・サバイバー』に続き、また実話物。仲いいんだな、この二人は……。で、またヒロイックに熱く煽りまくるのかと思いきや、状況的に追い込んでくる容赦なさだけはそのままに、事故を前にした人間の無力さを突きつけ、男たちの熱い友情とか発揮してる暇、一切なしというリアル路線に……。

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 マーク・ウォールバーグカート・ラッセルらの現場に序盤から漂ってくる「なんかおかしくない……?」「やめといた方がよくない……?」という不穏な空気に対する、上役マルコビッチによる「これはつまりこういうことだ!」という正常化バイアス。作業日程は押しまくってるし、伸びれば伸びるほど予算もふくらむ。そろそろ再開しないとまずい、という、実際に油が出るのか、機材のメンテナンスは万全かということとはまったく関係がない経済的事情が優先され、圧力に負けて現場も容認……。
 経済的事情の前には、安全性や人的資源が真っ先にないがしろにされていく、という企業あるある、社会人あるあるを突きつけつつ、結局、ことが起きるまでは誰も真剣に受け止めないし、「まあ大丈夫だろう」という安直さからは逃れられないということを描く。歴史に学ぶと言うと簡単だが、誰もそんな「歴史的悲劇」が自分に起こるとは、リアルな意味では想像できないのだ。いかにも頼れる現場監督然としているカート・ラッセル(カーくんは実在の人には似てなかったな)も、一度は容認してしまうのがまた恐ろしい。

 予告編では、石油がにじんでるのかと思ってた映像は、実は泥水だったわけだが、そんな単なる水で大火災が起きちゃうという現実の恐ろしさ。とにかく映像はド派手で、その場の地獄っぷりを素晴らしい臨場感でたっぷり堪能できますよ。
 反面、話は地味で、もう事故が起きちゃったら避難するだけで何もできない。一応、被害の拡大を防ごうとはするのだが、もはや収拾はつかず。小さな成功を挟んで被害を減らし、ちょっとしたカタルシスを入れてくるのが、パニック映画のありがちなパターンなのだが、実話は厳しいのだ……。
 よくあるパニックものではあちこち燃えたり崩れてるのに結構延々と広い空間を走り回ってたりするが(逆にその長さを沈むまでの時間の表現として使ったのが『タイタニック』なわけだ)、今作はじきに逃げ場がなくなり、人間の動ける空間はほんの少しになってしまう。そのせいで、人間の活躍する見せ場までなくなってしまうという……。三つ四つ山場や見せ場を用意するのが普通の現代エンタメとしては弱いんだが、まあそこを煽りすぎないのがコンセプト通りで、逆に今作の良さなんだと言えるところ。

 事故収束後の処理のノーカタルシスっぷりも合わせ、むしろ無味乾燥な印象さえ残る、ドライかつ怖い映画でありました。