”エースとなる男”『疾風スプリンター』


香港発のプロ・ロードレース映画『疾風スプリンター』日本版予告編

 ダンテ・ラム監督作品!

 ジウォンがエースとして引っ張るチームレディエントに加わった、チウ・ミンとティエン。アシストとしてジウォンを支えながら将来のエースを目指す二人の活躍で、チームは上昇気流に乗って行く。だが、好成績もつかの間、チームは資金難に陥り……。

 最近、ノワールからちょい遠ざかってるダンテさん。『激戦』に続くスポ根もの。ロードレースが題材ということで、あまり映画化されてないネタをチョイスしてきている感じかね。映画で自転車と言えば、JGLの『プレミアム・ラッシュ』とか、中華圏ならジャッキーの『プロジェクトA』か。同じ自転車でも全然違うな……。昨年は『疑惑のチャンピオン』もありましたがね……。

chateaudif.hatenadiary.com
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 冒頭のレースシーンからいきなりど迫力で、スピード感も臨場感も素晴らしい。これは大スクリーンで金払って見る価値があるぜ……。そして、まあやっぱりなかなか映画化されない題材であるのにも納得。手間かかりすぎ、それっぽく見せるのは大変だし、役者の事故も生傷も絶えないし……。
 『激戦』と同じく、そのジャンルに詳しい人が見ればおかしいところもちょいちょいあるのだが、かの作品のボクササイズと同じく、「あるある」な事象も大量に取り入れて相対的にリアリティを確保しているような……。オフシーズンのバイトっぷりなどが好例ね。
 肉体的、競技的なリアリズムはある程度のところまで抑え、レース展開の妙や、エースとアシストの関係、チーム構成やスポンサーなど業界の内幕を次々に描くことで、観た人は自転車レースに詳しくなれるのだ。

 二人の自転車乗りの、エース候補とアシスト止まりの男の格差を描きつつ、エース候補エディ・ポンは名声に溺れて増長し、アシストのショーン・ドウは格下のチームでエースになるも器じゃないことを思い知らされていく。アマチュアの女子選手であるヒロインのワン・ルオダンとの三角関係的なやり取りがありつつ、エディ・ポンは彼女と付き合い出すも増長が災いして酒の勢いで浮気し……。このあたり、ベタなのはもちろんだが少々せせこましくもあり、成功者のスケール感に乏しい。普通はショウビズ界の華やかさに絡め取られたような描写になると思うのだが、正直、台湾の自転車競技でチームのエースになったところで、そこまでの名声や収入は得られないのかもしれないな。
 アスリート女子萌えというのは厳然としてあるので、まあヒロインも悪くないのだが、あくまで全部載せの一環に過ぎず、メインはやっぱり男同士の絡みだな、という感じ。

 後半はドーピングや競輪まで持ち出してきて、とにかく自転車と名のつくものは全部出しておこうというような欲張りさ。明確な悪役はいないので、クライマックスではかつてのエースとの対決になるのだが、まあまあいい人だったはずの彼が突然、謎の豪華風呂から「奴らと決着をつけてやるぜ……フッフッフッ」みたいに凄む謎の演出が……ちょっとノワールを引きずってるな……。

 さらに終盤は砂漠レースの絵面が地味で、少々息切れしたかな……。珍しいジャンルなので総じて楽しめたが、映画としてはもう一歩。とは言え自転車レースに興味ある人はぜひ見て欲しい。

スティグマータ

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キアズマ(新潮文庫)

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