”男は女以上に、強い者に惹かれる”『高慢と偏見とゾンビ』
あの名作のパロディ映画!
18世紀イギリス。奇病が蔓延し、ゾンビが跋扈する片田舎で暮らすベネット家の五人姉妹は少林寺拳法の使い手。ある日、隣家に引っ越してきた資産家のビングリーの家のパーティに招かれた一家は、そこで当主のビングリーとその親友にして若き大富豪ダーシーと出会う。娘たちの嫁ぎ先を探すミセス・ベネットは大喜びだが、次女のエリザベスはダーシーの不遜な態度と冷徹にゾンビを仕留める手際に高慢さを見るのだった……。
まったく予備知識ないのも問題ありじゃろう、と思って、原作は読みかけの状態から、キーラ・ナイトレイの『プライドと偏見』を観てから観に行ってきました。いや、この2005年の映画化はよくまとまっていて、確かに面白い。ムッツリしてるのに無駄にカッコいいダーシーさんのいけ好かない、でも無視もできないあの感じ、最高ね。今見るとロザムンド・パイクのおっとり美人は裏があるようにしか見えないし、キーラ・ナイトレイもいつ「Fuck off!」とか口走らないか心配でならないわけだが、そういうことを抜きにしても良くできている。古典の持つ、今現在の少女漫画にまで通じる物語力、シチュエーションの妙を堪能できる一本だ。
今作はゾンビが大量発生して後のイギリス、五姉妹が暮らす田舎を舞台に物語が始まる。原作を途中まで読んだ限りでは、ひたすら筋をなぞりつつゾンビを登場させていて、正直あまり面白くないのだが……。映画では後半からオリジナルの展開を見せ、EWZ(イングランド・ウォー・ゼット)とでも呼ぶべきゾンビ大戦の様相を呈する。
サム・ライリー演ずるダーシーさんの、呵責なきゾンビハンターぶりが明らかになるオープニングから、五姉妹登場の本編へ……色々とはしょりすぎで、五姉妹の下から三人がほぼ空気。アクションも挟んでいるのに尺が同じなので、テンポがいいと言うより何か語り残したまま先へ先へと進むような……これはオリジナルに何がしかの形で触れていないと少々しんどいかもな。
対照的に、力が入ってる部分は異様に頑張っていて、サム・ライリーとリリー・ジェームズの大激闘など、パロディとしてこれは絶対にやりたい!というのが伝わってくる。ここだけコントでやっても通じそうな、逆にそれって映画としてどうなの、と思わせられましたね。
そんなこんなで色々と雑だが、アイディア倒れの原作をより膨らませて、なかなか頑張っているのではないか。
『ビザンチウム』でも思ったが、相変わらずの「不器用ですから……」なサム・ライリーは最高。ダーシーの気難しさと誤解されがちな感じがハマりすぎ。カッコいいんだけど、なんか感じ悪い、でもカッコいい……なぜだか気になってしまう、イラつく野郎だ……!というヒロインの感じ方が体現され過ぎですよ。日本刀をストイックさの象徴として位置付けてるのもいいですね。でも、不器用なだけで、真面目ないい人なんですよ……! ラスト手前で初めて「ダーシーさんが笑った!」となるシーンも良いですね。
原作のロンドンからやってきた貴族と、地元貴族の経済格差や感じ方のギャップ、そこから生まれてくるプライドゆえの行き違い、偏見ゆえの確執……は、なかなか現代人には映像で見ただけでは理解しづらい。が、そのあたり今作では「武術家としての誇り」という少年漫画でもありがちな価値観に落とし込んで読み取ることも出来るので、意外にわかりやすかったところでもある。
代わりに、ゾンビ関連の盛り上げのために黙示録やアンチキリストまで持ち出してきたので、そっちの素養が必要になった感ありですね。
Mr.コリンズの噛ませ犬っぷりは変わらない……と思ったのだが、ラストではなぜかちょっと美味しい役回りになってしまうあたり、キャラを拾って立たせる現代エンタメの寛容さみたいなものも感じましたよ。
全体的にはぬるいが、ところどころ微苦笑してしまう微笑ましい映画であるな。ただまあ、もうちょっとアクションを作り込んだり、設定を詰めたりしていけば、もっと面白くなったのでは、というもったいなさも感じたところ。
ところでラストはホラー、ゾンビ映画のある意味定型をなぞっていて、もちろんそれでもいいのだが、敢えて言うなら映画版『DOA』形式が良かったな……。いや、こんな感じで五姉妹とダーシーさんが一斉に抜刀して終わるわけよ……最高だろ!?
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