”大人のパーティって?”『ノック・ノック』(ネタバレ)


『ノック・ノック』予告

 イーライ・ロス監督作!

 週末の夜、妻子をバカンスに送り出し、一人自宅で仕事していたエヴァン。大雨になった深夜過ぎ、突然、道に迷った二人の女が訪ねてくる。親切心を起こしたエヴァンは彼女らを家に入れてやるのだが……。

 キアヌ・リーブスが今年二本目の主演作! ということで、最近あまり儲かってないからか色々やってるのね。この人、ぼんやりしててあまり金集めの才覚とかなさそうで、監督に転向するほどのエゴもないし、ブラピやトムなんかに比べると次のステップにはなかなか苦しんでおるイメージ。

 そんな彼が今回は良き父、良き夫として、バカンス中の妻子を送り出して、仕事で留守番しているところに、雨の夜、濡れ濡れの美女二人がやってくる……。
 当たり前のことなのだが、防犯意識としては老若男女問わず、見ず知らずの他人は家に入れてはいかんのである。しかし残念なことに世の中の男はみんな心のどこかで、濡れ濡れ美女が自分のところにひょいと現れるのを期待しているのだ……。

 家に入れてあげて……車呼んであげて……タオル貸してあげて……コーヒー出してあげて……なぜか家の奥に奥に入っていき、彼を持ち上げるようなことばかり言う女たち。キアヌさんの中でも警戒警報は鳴っているのだが、一方で若い女の子たちに褒められていい気分でもある。今回のキアヌさんはややプヨっているのだが、「鍛え過ぎの筋肉って好きじゃないわ。ほどほどがいいの」とまで言われたら、それはいくらなんでも苦しいお世辞というものだよ、と思わなければならない。
 ここまではどうにかこうにか、心の揺らぎを覚えつつも紳士的一線を超えずにいたキアヌさん。これ賞品でも出る我慢コンテストなら、あるいは耐えきっていたかもしれない。だが、結局のところ、我慢したからどうなのだ、という身も蓋もない指摘を食い止められるのは、なけなしの内的規範だけという、砂の城……。
 さあ車が来た! 帰れ! というところで、ついに勝手にシャワールームに入って全裸になってる女ども! 泡泡プレイの始まりだ! 追い出そうとしたキアヌさんもとうとうWフェラの前に陥落。ここは女どももなりふり構ってなくて、まさに計画が成功するか否かの鍔際だったのだが、最後の猛攻撃に敗れ去り、濃厚な3Pを……。

 西村寿行の『滅びの宴』で、全然もてない男の家に見知らぬ美女二人が転がり込んできて三日間ヤリまくる、という話がある。散々楽しんだが、最後に緊縛プレイをした後は縛られたままで、実は女たちはテロリストの一味で、彼の家が爆弾の起爆地として必要だったために来たのだ、ということが明らかになる。「三日間、女を堪能させてあげた。思想もない愚かなあなたが一生味わうことのない極楽だったはずよ」と言われ、裸で縛られたまま爆弾とともに置き去りにされる……。
 読者サービスも兼ねてるが、作者らしい変な話だな、と思うと同時に、家と生命の対価が美女との3P三日間である、というお勘定はなかなか考えさせられる。

 今作のキアヌさんも、一晩3Pしたら最後、家庭を失う方向へ真っ逆さま。三日やってたら生命もなかったな……。私たち未成年よ、と脅され、家をめちゃくちゃにされながら警察も呼べない。女優二人とも二十代後半で、年上役のイーライ・ロスの奥様ことロレンザ・イゾ(『グリーン・インフェルノ』の処女な)が実は二つ下だったりするのだが、明らかにブラフくさいと思いつつ反撃できないキアヌ!

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 延々と脅され、拷問され、いたぶられ、「ああ……あの時やりさえしなければ……」と後悔するも、後の祭りである。男はこうして大切なものを失っていくんだな、と考えさせられる。既婚者は別に濡れ濡れ美女を妄想するぐらいしてもいいが、日頃から「毅然と拒否する」ことをセットで考えておかねばならんね。

 途中にとうとう人死にも出て、この女たちが捕まりもせず逃げ延びる、ということは多分ないだろうと思う。が、それでキアヌさんの溜飲が下がったところでどうしようもなく、全てはもう終わっているのだ。ご丁寧にSNSが止めを刺す……。

 終わったあとは家はめちゃくちゃになっている。帰ってきた息子の「パパ、楽しんだみたいだね」という言葉から、『プロジェクトX』のパーティを思い出した。あの映画では、家をめちゃくちゃにしても、お父さんがこっそり「見直したぞ」と言ってくれるという夢見てるとしか思えない展開が用意されているのだが、残念ながら今作の主人公は大人なので、褒めてくれる人は誰もいないし、家はめちゃめちゃだけど通過儀礼を終えて成長しました、みたいな与太はもう許されないのである。悲しいな、大人は!

滅びの宴(うたげ) 光文社文庫

滅びの宴(うたげ) 光文社文庫