”わたしはやれるよ”『心が叫びたがってるんだ。』


 TOHOフリーパスの最終日ということで、アニメの二本立てを敢行!


 幼い頃、自分の一言によって家族が崩壊した経験を持つ成瀬順は、高校になっても失語症のままだった。だが、担任教師の酔狂で地域ふれあい交流会の実行委員になった彼女は、やる気がなかったはずの他の3人の委員と共に、ミュージカルをやることを決意する。歌いたいという真意を胸に……。


 田舎の高校を舞台にした青春群像劇だが、一致団結して舞台の成功を目指す、という割合シンプルな青春もの。『桐島、部活やめるってよ』のような尖ったところはなく、大筋は予定調和的なお話。


 主人公は「夢見がちな少女」というところで、うわっ臭え!とちょっと思ってしまうのだが、そこに父親の不倫、離婚という生臭い話を叩き込んで、まずそれをぶち壊してみせる。それでも残る「夢見がち」部分は、お話の一部として動き始め、単なる「設定」ではなくなる。
 他の登場キャラクターも、設定だけ見たら、あーハイハイと言いたくなるような類型的なものなのだが、各自にワンエピソード挟むことで、ちゃんと生きたものに仕上げてみせるあたりがうまい。


 準主役級含めて無気力だったクラス全員が、やがて一つの目標に向けて進み出すあたりも、一人の賛同者が出れば追随するものが増えていくというパターンに則っている。無論、「みんなこうやって力を合わせて頑張ることが、ほんとは好きなんだろう?」という性善説含みなものではあるが……。


 しかし、今回の言い出しっぺは担任教師なわけだが、クラスのゆるい雰囲気からして、この人は普段は本当に放任主義なんだろうなあ。逆説的に言うと、日頃中途半端に縛りつけていないからこそ、本当の意味での反感もまた育ってはいない。ある意味、自主性が「生き残っている」とも言える。


 田舎が舞台であるが、これまた性善説寄りに閉鎖的ないやらしさは描かれず。物語の発端である「丘の上のラブホ」もまた、とりたてて悪いイメージでは描かれない。あからさまではないが高校生たちの中にも、ごく自然にセックスがあることも示唆される。
 唯一、主人公の父親だけが少ない出番で完全に人間のクズとして登場し、その後は不要なものとして一切現れないあたりも潔いですね。


 丸刈り、強面、学ランをはだけてTシャツという野球部の元キャプテンがミュージカルに挑戦するというミスマッチ感も良しで、このキャラクターのおかげで物語にずいぶん厚みが出た。このキャラもビジュアルは類型的だが、「萌えアニメ」には出てこないタイプのキャラだけに、逆に新鮮に見えると言うか……。いわゆる「王子様」とは対極なだけに、最後の告白はどうなったかも気になるね!


 メインのミュージカルシーンは、舞台のクオリティが特別高くないところもよし。その分、この土壇場で主役が消えるという、非常にイラつかせるサスペンスで間を持たせ、後半の盛り上げどころにタメを作る構成も面白かった。見ていて時々アニメであるということを忘れる瞬間があって、キャラクターをしっかり描きこんでいるがゆえですね。人物配置も行き届いている。


 さて、そんなわけでなかなかいい話なのだが、『ブレックファスト・クラブ』と同じく、こんなものは嘘っぱちだ!と思った人は、『ヘザース』、じゃなくて次回の『ハーモニー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20151205/1449316702)に進もう。

「心が叫びたがってるんだ。」オリジナルサウンドトラック

「心が叫びたがってるんだ。」オリジナルサウンドトラック