”ラスト・メッセージ”『エベレスト3D』(ネタバレ)


 3Dで鑑賞。


 世界最高峰であるエベレスト。プロの登山家たちが挑戦し続けた時代はすでに終わり、今や高額のツアーが組まれ、アマチュア登山家たちもこぞって登頂を目指すようになっていた。だが、極寒の自然は突如牙を剥き、ツアー客たちへ不意に襲いかかる……。


 1996年にあった実際の事件を元に映画化……ということであるが、全然内容を知らずに観に行ったのである。プロが引率する中で、アマチュアの登山家を集めて最高峰への登頂を目指すというツアーがこの頃から盛んに行われており、引率役の偽ジョン・コナー、じゃなくてジェイソン・クラークは、身重の妻キーラ・ナイトレイを残して、自分が経営する会社での登山ツアーでエベレストに。日本人登山家も加わっていた参加客の中にはジョシュ・ブローリンジョン・ホークス。同じようなツアーを組んでる登山家にジェイク・ギレンホール、ベース・キャンプに残るスタッフにエミリー・ワトソンとエリザベス・デビッキ、別方面から登っている登山家にサム・ワーシントンと、超豪華キャストだ!


 極寒の地で少しずつ身体を慣らしながら登っていき、ベースキャンプ以降も数度に分けて登頂を目指す。時折、悪天候もありで、常に断念する決断を迫られている状況。しかしながらジェイソン・クラークのツアーは去年は登頂に失敗していて、二回目に来ているジョン・ホークスは今度こそ登頂したい。何せこのツアー、一回65000ドルも取っているのだ……!


 当たり前だが実際にエベレストでロケもしているので、まあ大した迫力である。3Dでやたらと高さも強調され、クレバスの深さが恐ろしい。これはIMAXで見たらすごかったんじゃないかな。
 天候にも恵まれ、アタックを予定していた日は前夜の嵐も止む。いざ、登頂……! しかし、ここまで色々と不安要素がチラチラと出ているのだな。ジョン・ホークスは体調を崩しているし、他のツアーも同じ日に押し寄せて狭い山道を大渋滞、シェルパたちとのコミュニケーションが怪しく、ツアーの遅れを取り戻そうと一人で上下し続けているジェイク・ギレンホールはちょっと体力の限界にきているっぽいなど……。


 夜明け前に登頂を開始し、14:00までに山頂にたどり着いてそこから引き返す。これは鉄のスケジュールのはず……だった……。が、山頂直前のチェックポイントで、アマチュアが登るのに必要なロープが張られておらず、張り直しにまずタイムロス。早くも一時間の遅れ。さらにジョシュ・ブローリンが目が見えなくなり、下山も出来ずに一時その場で待つことに。遅れつつも皆登り続け、幾人かは引き返すものの、何人かは登頂に成功する。今まで6大陸すべての最高峰を登頂してきた日本人女性も、エベレスト山頂にたどり着く! やった! これが山頂の眺めか……完全に空ですね。


 もう時間も押してるし、そろそろ下山しないと、山の天気は変わりやすいし危ない。現に嵐が最接近中ではないか……。が、どうしても登りたいジョン・ホークスがゲホゲホ言いながら必死に上がってくる。残ってそれを助けるジェイソン・クラーク……二時間オーバー……そこに嵐が……。


 まあ豪華キャストなんだけれど、ここからはもう重装備でゴーグルとマスク、さらに吹雪が来てるから、誰が誰やらわからなくなってくる。そして、襲いかかる圧倒的なまでの実話力……。実話の力の前には、どんな役者でどんなキャラクターを持っていようが立ちすくみ飲み込まれるしかないのだ……! 悪天候、極寒の中、嵐で立ち往生した登場人物は、登頂の感動も束の間、次々と討死していく。山の暴威は凄まじく、どんな苦難も跳ね除けるはずのハリウッドスターたちが無力に凍りつき散っていく姿……!


 無力なのはベースキャンプのスタッフや、麓にいる妻子も同じで、何か奇策を思いつくでもなくただ待つしかない。エミリー・ワトソンは嵐を警告するだけ、医者のエリザベス・デビッキも直接診察できるわけじゃない。そうこうする間にも無力に積み重なるボディカウント。


 そもそも環境が過酷すぎて、一見ガイドやシェルパが無気力&役に立ってないように見えるんだけれど、そもそもそんなにキビキビ歩けないし超人的な活躍は不可能なのである。
 ちょうどジェイソン・クラークたちが遭難した頃に、ベースキャンプにサム・ワーシントンがやってくるので、これは「俺が救出に行くぜ!」という流れかと思いきや、すでに手遅れ&無力すぎて、あんないかつい顔と身体してヒーロー然としてるのにほぼ突っ立ってるだけで何もしない! エミリー・ワトソンに「無線つないで」と言われて、言われるがままに働くアバター……嗚呼豪華キャスト。


 ジェイソン・クラークの無線と衛星電話をつないで、地元のキーラ・ナイトレイと会話する、という普通なら生存フラグの感動的出来事があるのだが、こちらも直後に凍死という実話の力に完敗。いや〜、この登山家の人が優柔不断にズルズルと帰還時間を引き延ばしたせいで大惨事になったように思えるのだが、まあいたずらに故人の名誉には踏み込まないことになっているのであろうか……。


 しかし、めでたく討ち死にリストに名を連ねたかな、今回はいつものゴリラとは思えないほど役に立たない&弱かったな……と思っていたジョシュ・ブローリンが凄まじい生命力で復活したのには驚いた。唯一ゴリラらしいいつものキャラのパワーを発揮して気を吐きましたね。


 終わってみれば感動とか一切なく、ただ「危険なところ」に「危険なこと」をしにいった人たちが「危険な目」に遭ってその何割かの確率通りにお亡くなりになった……やっぱりエベレスト舐めちゃダメよ! というだけの話で、ほんとにアトラクション映画であったわ。豪華キャストをすり潰す山と実話のパワーに圧倒されましたね。ただ、鑑賞後の後味は超悪いですから!

バーティカル・リミット [Blu-ray]

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空へ―「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日 (ヤマケイ文庫)

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