”ボーダーは正義”『ザ・ヴァンパイア』
イランの吸血鬼映画!
イランのバッド・シティにおいて、黒衣の少女が夜の街を彷徨う。悪人を狙い、彼らを狩って血を吸うヴァンパイア……。麻薬中毒の父と暮らす青年アラシュは、父の借金のかたに愛車を取られてしまう。車を取り返しに売人のところへ向かうが、売人は少女に殺されていた……。
非常に格好の良いビジュアルをスチールや予告で見ていたので、そこは楽しみにしていたところ。ボーダーを着た少女の吸血鬼が夜な夜なイランの街を彷徨う。非常にムーディーなロケーションで、砂塵舞い太陽の射す昼間の光景がそのまま冷え冷えとなったような夜の街は、石造りの建造物の静けさと相俟って、ヨーロッパの古城にも劣らぬ吸血鬼映えした光景に! この効果はちょっと予想外であったな。
夜は人気もなくなり、昼間に映された死体捨て場の衝撃も合わせて、ちょっとした終末感が漂う。そんな無味乾燥とした地で、ヤク中の父親と二人暮らしの青年……。
お話的には、この青年の人生の最大の障害であるヤクの売人の男が、早々と血を吸われていなくなってしまうので、ちょっと盛り上がりに欠けたな……。ここではないどこか、に行きたい青年の障害がお父さんだけになってしまい、ヤク中でどうしようもない親とはいえ「早く死んでくれよ!」と堂々と描写するわけにもいかず、そちらもなし崩しに血を吸われたようなおかしな展開に。
とはいえ、その筋道のはっきりしてない展開がホラーっぽいと言うか、もっと言うと伊藤潤二の漫画の不条理性にもつながるような気がする。いやあ、このビジュアル、全編伊藤潤二が再現したら面白いと思うんだがなあ。無駄に美形な吸血鬼とか、彼女の部屋の調度品のセンス、主人公の恐れおののき方……。どれも自然に再現できる!
ただまあ、漫画にしたら2〜30ページぐらいにまとまりそうで、映画も一時間弱で十分じゃないかという気がしたな……。
ビジュアルとセンスのオシャレ感、舞台となる街の素晴らしさ、初めて聴くイラン音楽など見どころも多かったが、まあちょっと映画としては物足りないところでありました。
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