”最強ハッカーにオレはなる!”『ピエロがお前を嘲笑う』(ネタバレ)
ドイツのミステリ映画。
ハッキング事件の容疑者であるベンジャミンが、保護を求めて警察に出頭してくる。取調室で、彼は自らの生い立ちと、仲間のマックスたちに出会ってハッカーとなった経緯、そしてなぜ追われる身になったかを語り始める。三人の仲間たちはすでに殺された……!
またも「衝撃のラスト」という触れ込みだったので、いい加減こういうのはネタ切れだろうと思いつつも、一応行ってみました。
主人公のハッカーの青年が警察で独白するところから物語は幕を開ける。出た! 定番パターン! ここはそもそも「語り」であるからして、回想として出てくる映像はあくまで「語り」の映像化であり、目に見える本当のものとは限らない、ということが大前提。この語りの中に虚実が入り混じり、仕掛けが施されている……。この手のオチをひねった映画って、必ず途中で「違和感」を覚えるところがあるのだよね。つながってるようでつながってない、不自然に見えるカットだったり、一瞬意味を取り違えそうになる台詞だったり、さりげなく、なおかつ必ず印象に残す、そんなシーンが必ずある。その時はその違和感の意味さえわからないのだが、後になってそのシーンがフラッシュバックされ、それが衝撃のラストの伏線だったことに思い当たる。
ところが今作、そういうシーンがほぼないのだよな。一向に映像に仕掛けのあると思しきシーンに行き当たらない。唯一、薬莢だけは最初から怪しげな感じで提示されていて、冒頭の事件のものではなく戦時中のものだという手がかりも示される。
正直、映画としてはかなり退屈で、役者もむさ苦しいし女優は可愛くないし、「すげえハッカーになるぜ、ひゃっほい!」というキャラにも全然共感できなくて、途中から壮絶に眠くなっていた。が、この後でもしかしたら重要な伏線があるかもしれない、寝たら見逃すかもしれないと思って、頑張って起きていたのである。やっとこさ、手を怪我するシーンがあって、ああ……なんかすっげえわざとらしく撮ってるな……。これが伏線? 別人か同一人物かそんなところか? それにしても、手がかりがこれだけでは解決として弱いだろう。
もう一つおかしいな、と思うのは、あまり可愛くないヒロインとの関係。主人公とではなく仲間の一人とチューしてたりして、彼女との関係は非モテオタクの妄想なのでは、と感じさせる。
これらを軸に明かされる衝撃の真相……実は主人公は多重人格だったのだ! わざとらしく『ファイト・クラブ』のポスターが貼ってあるあたりにも注目してほしいらしい。……が、何せここまで伏線を全然張ってないので、全然説得力がないよ。多重人格なら、もっと複数の視点から「どちらとも取れる」映像を入れておかねば……。さらに、まだ映画が終わるまでは時間もあるし、もうひと展開あるのは明白である。
でも、もう怪しいシーンの伏線は使い果たしたし、ここからどうするつもりかな? まさか……と思ってたら、実は何も起こっていなかったというオチを、ドヤ顔で持ってくるとは驚きだ。いやあ、考えたな。これだったら作中にチマチマ仕掛けを入れておくこともない。ひたすら普通に撮って、終盤に伏線なしの後付けの多重人格設定を放り込んで、それをまた元に戻せば何か複雑なことが起きたかのように見える。が、一周回って何も起こってませんでしたってのは、禁じ手を通り越して、恥ずかしいから誰もやらないネタじゃないか。
作り手は色々と考えてつじつまを合わせてるから、すごいシナリオが書けた!ともしかして思っているのかもしれないが、観客の立場から外から見てたら本当に何も起こっていない。で、登場人物の視点に立っても、最初から頑張って仕掛けを施していたわけじゃなく、逮捕寸前に無理やりでっち上げた話で、後からネタばらしされると、そんな風に誘導されてくれる保証は何もない浅知恵にしか見えないのだよな。100%すべてが上手くいく保証がどこにもないし、うまくいかなかった場合の保険もない。でも、オチから逆算して途中の展開を作っているせいか、女捜査官の行動がなんともご都合主義。もっと冷徹な人で、あのまま主人公一人だけ逮捕されてたらどうしたのだろう? 逆にあんな簡単に証人保護プログラムを触らせてくれるぐらい人情家なら、全員で土下座すればまとめて逃してもらえたろうに……。
結局なぜこのオチが成立するかというと、「どっちみち小者だから、見逃そうが逮捕しようが大勢に影響はない」からで、話全体のスケールが何とも小さく思えてくる。
この手のラストで有名な某映画が、「でっち上げの話だけど、その場のアドリブだけですべて作ってた」ことで犯人の頭の良さを表現し、「100%信じさせて保護されることなんて必要ない。その場を離れさえできればそれでいい」だけが目的で、「小者だと思って見逃したら、本命の超大物だった」のと比べると、ひねったようで劣化し切っているよ。
リピーター割引が設けられていたが、この内容だと全くリピートする必要ないわなあ。そんな宣伝にも騙された一本でした。もう「衝撃のラスト!」は信じないぞ!(でも多分また行く)
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