”大切なことはすべてグーグル先生に教わった”『ナイトクローラー』


 ジェイク・ギレンホール主演作!


 窃盗を繰り返し小銭を稼ぐことで生計を立てていたルイス・ブルーム。ある夜、交通事故の現場に遭遇し、その模様を撮影するカメラマン達を目撃する。報道スクープ専門のパパラッチ「ナイトクローラー」の存在を知った彼は、自分でもカメラを手に入れ、現場に駆けつけるようになるのだが……。


 最近、どんどん振れ幅の広い役者になってきたギレンホールさん。今回はやせて目がギョロギョロの男。妻曰く『トイ・ストーリー』のウッディそっくり。冒頭からフェンスやボルト、マンホールの蓋を盗み、警備員を殴り倒して時計を奪い、それらを質屋や金物屋に持ち込んで売りさばく。いやあ、この冒頭からドン引きですよ。てめえに明日を生きる資格はねえ!
 いかにもやり慣れた手さばきだが、本人なりに「このままではいけない」と思っているらしく、持ち込んだ金物屋で自己アピール。自分の将来性や能力について語る……が、店長は、


「こそ泥は雇わねえ」


 とバッサリ。後から振り返ればこれが全てを象徴していて、本当にこれだけの話なのだよな。だが、このような男とギブ&テイクの関係を結んでしまう人間がいて、業界があったのである。


 ドライブ中に交通事故に遭遇したギレンホール、現場で被害者と救出作業をする警察を目撃し、それを撮影するカメラマンと出会う。フリーのカメラマンが警察無線を傍受して事件があったら駆けつけ、刺激的な映像を撮ってはマスコミに売りつける、という商売なのだが、これに金の匂いを嗅ぎ取るギレンホール。
 さっそくロードバイクを盗み(えっ!?)、それを売り払って引き換えにカメラと編集機材をゲットするのであった。


 まあ実に勤勉な人で、何でもネットで調べているのだが、全てを着実に取り入れていく。思えば我々もなんでもグーグル先生に聞いて全てを知ったような気になっているが、実際にそれで知識を手に入れても、いざ実践するかというとなかなか追いつかないものである。しかしこの男はまるで働き者のアリのように規則正しく学習し働いて、徐々にコツをつかんでいく。知識と経験の不足ゆえに失敗もあるのだが、一切物怖じしないので躊躇いがない。「それなに? 教えてもらっていい?」と常に尋ねるところもポイント。
 そもそもタブーらしきものがないこともじわじわと見えてくる。血を吐いた患者にどんどんカメラを近づけ、重傷者の場所を動かし、被害者の家に侵入し……。倫理的にまずい、これ以上やると自分が危ないかも、そんな危機感もそうだが、血や悲惨な状況に対する嫌悪さえもない。まるで人間とは異なる生き物のようだ。昆虫、宇宙人、人形……見た目だけは人間なのだけれど、全く違う価値観で動いているような……。


 その映像を買い取るのはテレビ局で番組制作やってるレネ・ルッソさん。最近は『マイティ・ソー』シリーズ(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140211/1392122824)に出てたが、重要な役ではなかったし、今回は目立つところ。『フリージャック』の頃から熟女キャラだったけど、さらに二十数年経ってもまだ熟女役。映像を持ち込んだギレンホールに業界のイロハを教え、もっと良い映像をと要求。しかしメンター役だったのは最初だけで、段々彼の特ダネに依存することになり、さらに断り切れず肉体までを差し出すことに。


 えっ、なんでここまで熟女を?と思うのだが、宇宙人に女性とまともなコミニュケーションが取れないのは明白で、損得感情や弱みでしか人を動かせないし、どこかゲーム感覚で相手は誰でも良いようにさえ見える。要は屈服させることが重要で、それ自体も手に入れたスキルや地位を試しているだけに過ぎないと言うか。


 あまりにもうまく行かない時には「怒り」っぽい感情を露わにすることもあるし、ニヤニヤして喜んでいるように見える時もある。得意がっているようにも思える。喜怒哀楽の哀だけがすっぽりと抜け落ちているようで、それだけでなんとも「欠落」した印象を受けるのだな。それは確かに感情の表現なのかもしれないが、一方で「形態反射」に過ぎないようにも見える。


 実話でこそないが、観てる時の感じは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140222/1393254709)に似ている。全てはマコノヒーさんならぬネットの受け売りで始まり、それを忠実になぞり、自身の資質によってよりソリッドにしていくことで発展していく。「もっと稼げ!」と同様、「もっともっと刺激を!」という原型と呼べる価値観はすでにマスコミ業界の中にあり、主人公自身はそれをなぞっているだけでもある。ほんの少し手段を選ばないだけで……。


 折々においてドン引きし、「えっ、やり過ぎかも……」と思うレネ・ルッソディレクターであるが、結局は視聴率の誘惑に負けて映像を採用し、彼の要求を叶え続ける。
 エスカレートし切らないところも面白く、欲望に負けて過大な要求をしすぎて破滅する、という展開にもならない。「世界」が彼の破滅を求めない一線をぎりぎりで越えない。


 こんな嫌な話なのにちょっと爽快感があるのは、割合小規模なサクセスストーリーの構造をなぞっているからでもある。裸一貫で、自分で勉強してスキルを身につけて起業し、機転と口八丁を効かせて、社会や警察の鼻をあかす。学歴や格差の壁に阻まれて来た者が放つ逆転打だ。
 しかしながら、こそ泥になる奴も、こそ泥を雇う奴も、こそ泥に雇われる奴らも、せいぜい反面教師として捉えるぐらいしか役には立たないのだがね。

ミッション:8ミニッツ (字幕版)

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複製された男 (字幕版)

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