”わたしには夢がある”『グローリー』
キング牧師、初映画化!
1965年、セルマ……。なおも続く黒人差別の中、キング牧師はこの地で大きな運動の波を起こそうとしていた。セルマを出発する二日間のデモが企画され、ついに出発の日を迎える。だが、最初の橋で彼らの前に警官隊が立ちふさがり、次々と暴力が振るわれた。さらに運動員が射殺される事件も起き、全米に報道される中、運動はさらに加熱していく。
いろいろな映画にちょいちょい脇役として出ているキング牧師だが、ピンでの映画化は初。演説内容などの権利関係を遺族団体が持っていて、安直な企画や、キングの浮気に踏み込んだ内容にはOKを出さないことが理由だそう。現在はスピルバーグが映画化権を買っているが企画頓挫中。だが、ここで、権利を不要にするために演説内容を丸ごと改変して映画化してしまう、というウルトラCが炸裂してしまった。
有名な演説のあのフレーズがないの? それだけでぶち壊しレベルの話じゃないかと思うが、幸いこちらは日本語圏の人間なので、まあ英語にうといのが幸いしてさほど気にならず。
さすがに権利のない状態でキング牧師の一生を丸ごと描くのはあちこちに無理が出るだろうということで、セルマという街での運動の数日のエピソードに絞って映画化している。されどあまりこじんまりしたイメージにもならないように、冒頭でジョンソン大統領と対面! キング牧師に憎悪を燃やすJ・エドガー・フーヴァー長官が登場! さらに宿命のライバルであるマルコムXが! 立て続けに登場して大サービス。スケール感と時代の空気をひねり出し、ある意味、この時代のアベンジャーズのようなことになっている。
キング牧師役は名前が覚えにくいデビッド・オイェロウォさん。『ペーパーボーイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130803/1375523993)や『インターステラー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20141203/1417611740)にも出てる、ちょっと知的なイメージの人。今回は若干丸顔にして、本物にも似せている。今までの役を考えたら、順調なステップアップだな。
時に暴力も手段としようとする抵抗を拒否し非暴力を貫くなど、運動論の対比を描きつつ、当時の黒人差別の卑劣さなどの大枠を抑えているが、それをまさに凝縮したようなエピソードがセルマで起こったことであり、指導者としてのキングの葛藤もまたそこで最大限の振れ幅を見せたように描いている。
あまり大仰に演出せず、教科書通りのような物足りなさもないではない。不倫エピソードもさらっと流しているしな。が、だからこそ作中で起こる暴力が、日常の中で不意に、理不尽にも襲ってくる感覚を描けている感もあり。『猿の惑星 創世記』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111014/1318343207)でも引用された、橋の上の騎馬警官のシーンは必見ですね。
『ラン・オールナイト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150615/1434372468)では殺し屋だったコモンさんが、わりといい役で出ていたな。もちろんエンディングではアカデミー賞を取った主題歌を熱唱! 歌も含めて満足感のある映画でした。
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