"風が呼んでる、いつか聴いたあの声が"『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』


 アカデミー作品賞受賞!


 かつてスーパーヒーロー「バードマン」役で一世を風靡したリーガン・トムソンだが、20年経った今となってはすっかり落ち目。大ファンだったレイモンド・カーヴァーの小説『愛について語る時に我々の語ること』を舞台劇化し、ブロードウェイでカムバックしようとするが、脇役に注目を奪われてうまくいかない。おまけに、別れた妻との間の娘とも溝が深まり……。


 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の最新作。今年のアカデミー賞絡みはどれも面白いな〜と思ってたが、この監督の映画で唯一見た『バベル』が死ぬほどつまらなかったので、作品賞のこれはもしかしてダメなんではないかと心配しておった。ブラピとケイト・ブランシェットの嘘くさい夫婦喧嘩とか寒かったなあ。いかにも意味ありげだが話の前提条件が間違ってるので中身がスッカスカになり、構成ばかりが先走った駄作という印象であった。さて今作はと言いますと……。


 観ていて思ったのは、この話、この間見たばかりの『シェフ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150316/1426507517)に似てね?ということ。望まぬ境遇に陥っている男が一念発起し再出発する、というところは同じ。『シェフ』は料理人が主人公だが、実質は監督であり俳優でもあるジョン・ファブロー自身の話だからな。別にパクってるとかそういうことではなく、そこはやはりハリウッドにいる役者や監督の共通の悩みである、ということなのであろう。
 大きな名声を得ていた時期と今現在にギャップが生まれ、自分自身が過去と現在に引き裂かれていくような感覚に囚われる。過去の方が理想的で、今は望まぬ仕事をしているか、過去に意に染まぬ仕事をしたのが逆に大きな名声を得てしまい、今していることが評価されないか。そうした違いはあれど、ショービジネスに携わる者として、評価と自分自身のずれに悩まされることとなる。
 で、現在に至るまでに妻と別れ、子供とも疎遠になり、男としても父としても不全状態になっている……というところまでいっしょやがな。別れたけど、一応妻には心配されていて……。この辺りはまあわかりやすいフック以上の意味はないのかもしれないが、ベタだな。


 フィルモグラフィーを振り返って『絶対×絶命』とかのタイトルを見ると、「ああ、代表作は……やっぱり『バットマン』……しか……ないかな……」と言うしかないマイケル・キートンを、元ヒーロー映画『バードマン』の主演俳優としてこの物語の主人公に据えている。バードマンとしての自分と決別するために、舞台俳優に転身を図り、演出まで手がけるのだが、評判は芳しくなく、過去の自分からのプレッシャーがひしひしと……。


 舞台劇のシーンから舞台裏までをワンカットに見えるように撮って、役者の感情の動きをシームレスに捉えていく演出が面白い。文字通り、各登場人物が一喜一憂する流れを切れ目なく撮り続けるので、臨場感がいや増していく。実際は一夜明けなど含めて大きな時間移動や、空を飛ぶシーンなどの大仕掛けも挟んでいるので、あくまで「見えるように」撮っているだけなんだが、その大胆さが鮮烈でもある。音楽も途中、ドラムがガンガン鳴っているのだが、舞台裏に回った時に演者が映るシーンなどもあってニヤリとさせられる。


 ただやはり、話がベタベタな割に構成ばかり凝ってひけらかしてる感じが『バベル』に似てるな、ともちょっと感じたところ。演技や演出、全てが総合的に向上してるから映画としては格段に良くなっていると思うが、まあ好みは分かれるところではないか。
 マイケル・キートンエドワード・ノートンの頑張りのおかげで迫真感もあるが、作り込み過ぎ、出来過ぎで嘘っぽいところもあまり好きではない。舞台裏のハプニングがSNSに流出するあたりまで『シェフ』に似ているから笑ってしまった。さらに、嫌な性格の評論家まで出てきて罵り合いに。ほんとに銃をぶっ放した途端にその評論家が絶賛とか、そこはかとなく『サード・パーソン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140703/1404370880)のような似非文学臭を嗅いでしまい、そこは減点。これで伝説になれるなら苦労しないだろ。お話としては一人の男が過去と決別して、自ら飛べるようになったというところさえ押さえてればいいのだろうが……。


 ヒーローネタも色々盛り込んでいるが、あくまでネタ以上の意味はないように感じたな。もう10年企画が遅ければ、トビー・マグワイアあたりが主演でも撮れていたかもしれない。
 しかし、バードマンの象徴として吹っ飛ばされるのが鼻である、というのはちょっと弱かったんじゃないかな。無理やり新作『スーパーマンvsバットマン』につなげるなら、ベン・アフレックが主演して、最後に自分のケツアゴを吹っ飛ばしたら面白かったのに!

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