”中身はフワフワだ!”『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』


 ジョン・ファブロー監督主演映画!


 ロサンゼルスのフレンチレストランでシェフをしているカール。ある日、かつて自分の料理を絶賛してくれたグルメブロガーが来店するというので、張り切って新作を出そうとするのだが、オーナーに定番コースを出せと止められてしまう。しぶしぶ従ったカールだが、ブロガーはそのいつものコースを酷評。腹を立てたカールは、息子に教わったばかりのTwitterで罵倒リプライを送ってしまい……。


 『アイアンマン3』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130502/1367490315)を蹴ってこちらを作ったという話のジョン・ファブロー。さて、観る前は晩飯食って眠かったのだけれど、映画のオープニング……野菜をまな板でトントントントン! 鉄板をジューッ!の音で一発で目が覚めたわい! これは美味そうなものが食えるんじゃないかな。


 さて、フレンチレストランで働くジョン・ファブロー”シェフ”、斬新なメニューを出したいが、ダスティン・ホフマンオーナーに怒られ定番メニューばかりを出す毎日。店はリピーターが多い、いつものメニューが大事なんだ、というオーナーの言い分にも、単に商売の話ならば一理あるのだろうが、やってきたグルメブロガーにはバッサリと切られることに……。このブロガーを気にしているのはシェフばかりで、オーナーも売り上げへの影響とか全然考えていないが少々不自然ではある。


 昔は褒めてもらったのに定番料理はボロカスにけなされ、腹を立てたシェフは息子に教わったTwitterで、ブロガーに罵倒リプライ……。なんだろうね、世界のあちこちで今も起きている炎上が、我々に知らず知らずのうちに教えてくれる「やってはいけないこと」、それが目の前で再び繰り返されようとする光景は、どうしてこんなにもムズムズするのだろうか……? アイコンに通知が大量に表示されるなど、あるあるネタが満載で、「これだから情弱は……」と笑いたいところだが、背筋が寒くなる気分を味わう。いや、我々とて、いつカッとなって有名人に突撃して晒されるか、わかったものではないのだ……。


 多少なりともネットリテラシーがあれば、ここで危険を察知して、アカウントを消すなり何なりして身を潜めるのだろうが、大炎上も意に介さずリターンマッチを挑むシェフ、しかし、今度はオーナーに首にされてしまう。それでも腹の虫は収まらず、厨房を追い出されたのにTシャツ姿でレストランに乗り込み、グルメ評論家を罵りまくる!
 まあプロとしては言語道断で、『美味しんぼ』的もてなしイズムにおいても完全にアウトという感じ。『ビッグ・アイズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150130/1422618310)を見ろよ……。
 が、そうは言っても怒りの部分は本音であり、また「芸術」としてでなく、「食べる人の笑顔が見たい」という「コミュニケーションツール」として料理を捉えるならば、先のオーナーの理屈共々わからないでもない。要は自分自身が何をしたいかで……。メニューは不本意だけど中身は頑張ったんだ! というのは、まあ現状の追認としてはそうなのだろうが、やっぱり自分の心には嘘をついている。だから、指摘されると怒らずにはいられない。自分が一番わかっているだけに、人に言われたくないのだ……。


 ジョン・ファブロー監督は、『アイアンマン2』が本当にかったるくてつまらなくて、さらに『カウボーイ&エイリアン』もそれなりに手堅いけれど全く面白くなかったのだが、批評家に「中身のない大作」とボロクソにけなされたのを相当気にしていたそうで、ここ数年、「本当に作りたいもの」を目指す旅をしていた。そして、今、料理人の主人公として新たな旅に出る……。
 登場人物全員がファブローさんのことを好きすぎで、決して見放さずに助けてくれるのだが、これはダウニーJr.やスカヨハさんの友情出演と重なる部分。
 まあ出てくる料理が全部美味そうで、本当に料理が好きなのだな、ということが伝わる細部のディテールのこだわり。そして、一見仲がよさげだが、実は上辺だけで本当の心の交流がなかった息子との、本当の心の触れ合い……。いや、この息子との展開も、息子の方が必死に歩み寄りを求めてくるあたり、この主人公が好かれすぎで恵まれてるなあ、と思いましたがね。
 人間関係の描写やストーリーはそんなこんなで少々ぬるいのだけれど、家族や友人の大切さとネット民の冷たさの対比とも取れるかな。
 そこは宿敵となったはずのグルメブロガーさえも例外ではない。料理が理想とするのは融和だ! フードトラックに乗って再び故郷へと帰ってきた時、再度の対決が迫るのだが……。このあたりの頂上決戦をわざと外した感じも、結局、料理は争いや競い合いの道具ではないんだということですな。


 旅の楽しさと、行く先々に登場するアメリカの料理の数々もまた素晴らしい。いや、どこももちろん自分自身が行ったことない場所ばかりなのだけれど、どこかしら懐かしさを感じさせるような……。あの一晩かけて焼く肉とか、食べたことないにも関わらず、なぜか久しぶりに食べてみたいと思ってしまう……これはなんだ! 前世の記憶なのか!? 単に食い意地が張っているだけなのか?

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