”奴を撃ち貫く"『アメリカン・スナイパー』
イーストウッド監督最新作!
ネイビーシールズに入隊し、イラクに派遣されたクリス・カイル。狙撃手としての才能を開花させた彼は、自爆テロを試みた女と子供を射殺したのを皮切りに、160人を撃ち倒し伝説とまで呼ばれた。敵からは悪魔と呼ばれ賞金首となったクリスは派兵を終えて帰国するが、少しずつ精神に平衡を欠いていく……。
去年も『ジャージー・ボーイズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20141016/1413463680)観たところだけど、精力的に作ってるなあ。今年も新作です。『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』以来の戦争物。実話ベースのお話で、実在の狙撃手クリス・カイルの自伝が元になっている。当初はスピルバーグ監督で企画されていたのが、イーストウッドがメガホンを取ることに。
ブラッドリー・クーパーが製作と主演を兼ね、マッチョな肉体を作ってシールズを熱演。子供の頃から父親の元で狩猟に親しみ、「狼」から「羊」を守る「番犬」であれ、という教えを叩き込まれる。番犬って、全然いいイメージじゃないなと思うのだが、いかにもな古いアメリカの価値観であり、弱者と敵という風に周囲を単純化するロジックである。子供の頃からそれを真に受けて育ち、カウボーイ生活に行き詰まったところで9.11。一念発起して海軍に入隊する。
『ローン・サバイバー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140426/1398510998)でもやってた地獄の訓練があって、その後、イラク派兵。弟も遅れて従軍。予告編でも異様な緊張感を放っていた「子供殺し」へと繋がる。
主人公であるクリス・カイルという一人の男の価値観と、アメリカそのもののそれが随所で重なる。テロ被害者という羊を守る世界の番犬として、イラクという狼を撃ちにいく……。だが、世界はそんな単純な価値観では割り切れず、戦場に行った人間は、少なからずそのツケを負うこととなる。
イラク戦争自体の是非には踏み込まず、PTSDなどの悲惨な結果を招きますよという時代を問わない普遍的な事象をもっての「反戦」という印象。一兵士の掲げるヒロイズムを断罪することはないが、幾度出兵しても戦争に果てはなく、一人の人間の出来ることは限られていて、世界は少しも変わらないということも示される。永遠に続くであろう戦いの中で心身を蝕まれた男は、自分の写し鏡のような宿敵、もう一人の伝説的狙撃手との決着をもって、身を引くことを決意する……。
最後は西部劇になってしまうイーストウッドの手癖。そのせいか、なんかジョン・ウーの『ウインドトーカーズ』に似ちゃってるところがあったな……。クライマックスで空見上げて電話してるところが、ニコラス・ケイジにかぶった……。
しかし、当たり前のようによく出来ているんだが、いささかフラットに撮り過ぎていて、強いメッセージ性を残さず作り手自身の立場も明白ではないゆえに、映画として強烈な印象を残さない面もあり。近年の体感型戦争映画と比べると、前のめりな没入感では若干分が悪い。まあ歳も80を過ぎてあれだけ背が高いと(関係ない)、どうしてもある程度俯瞰的な視点以外からは見れなくなるのであろう。エンドクレジットの無音もまた……。
ブラッドリー・クーパーの甘い雰囲気が、ゴリマッチョであったクリス・カイルの雰囲気を緩和して、殺人そのものには何のためらいもなかったのだがいつしか心身がついていかなくなる、という事象に、いかにもナイーブなムードを付け加えている。割合単純な出来事も、イケメンがやるとなんとも意味ありげに見えてくるという、これも映画ならではの効果でありますね。

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