"祭りは人が死ぬ”『荒野はつらいよ』


 『TED』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130123/1358909991)のバカ当たりを経て、セス・マクファーレン監督・主演作が公開!


 1882年、西部開拓時代のアリゾナ。タフさが自慢の男たちが競い合う世界で、羊飼いのアルバート・スタークは銃さえろくに撃ったことのない軟弱な男。いざ決闘となっても平謝りで、彼女にも愛想をつかされてしまう。傷心の彼だったが、町に謎めいた美女アンナがやってきて……。


 まあ正直、観るべきかどうかギリギリまで迷っていたのだが、いざ観たらかなり笑ってしまった。下ネタ、グロネタ、人種ネタ、不謹慎の極みのようなギャグの連発なのだが、特筆すべきはやはり見せ方で、ウンコをするシーンで画面上に決して見せない……見せない……と隠す演出を徹底的にしておいて、気を抜いたところでガツンとそのものズバリの下痢便を見せてしまうという最悪さ。人体破壊もがっちり見せ、モブキャラではありますが、容赦なく人が死んでいきますよ! 決め台詞は「祭りは人が死ぬ」で、脈絡もなく牛が突っ込んできて人が腹をぶち抜かれるのである。


 セス・マクファーレン演じる主人公は、冴えない羊飼い。冒頭で決闘をするのだが、撃ち合いを放棄し、羊を売って弁償すると言ってしまう男。彼女のアマンダ・セイフライドにも、その情けなさから捨てられる。このフラれるシーンの「自分磨きをしたい」とか言うアマンダのあるある感に、女に対するまたいい感じの憎しみがこもっていますね!
 一方、リーアム・ニーソン演ずる荒野の無法者のチャンピオン、クリンチ・レザーウッドは、もちろんイーストウッドのパロディであり、強さと野蛮さの象徴的存在でもある。シャリーズ・セロン妻と彼女が10歳の頃に結婚……という、近頃の幼い娘にこだわる映画をからかっているような役柄。シャリーズ・セロンは彼のことを嫌いつつも暴力によって従わされている……という役回り
 夫と別行動を取ることになったシャリーズ・セロンは、町にやってきて喧嘩に巻き込まれ、主人公と出会うことになる。自身も凄腕であるセロン様だが、クリンチとまったく違う男である主人公に触れることで、彼に惹かれるように……。


 物語は、マッチョイズムを拒否する非モテで貧乏な男が、本当にいい女にその内面を評価される、という、ファンタジー以外の何物でもない話である。それを、マッチョイズムがなければ生き残れない荒野の西部劇に持ち込んだことで、まさにそのマッチョイズムを笑いのめすお話に。


 冒頭、中盤、クライマックスの、主人公による三度の決闘を軸に物語は進むのだが、単に臆病さから決闘を避けていた冒頭に対し、勝ちを目前にしても撃つことを選択しない中盤の対決、さらに今度こそ本当に決闘するクライマックスへと、少しずつ成長が描かれる。銃もセロン様の指導のもと練習するのだが、勝負論はそこには委ねられない。その勝ち方はともすれば卑怯とさえ言えるわけだが、いやいや、拳銃を振り回しての勝負なんてのがそもそも野蛮なのである。安全に、賢く勝つのが大事なのだ!


 『TED』では悪役だったジョヴァンニ・リビジが、親友役として登場。娼婦と付き合っているのだが、結婚するまでセックスしないという、何とも不条理な関係。でもやっぱりしたいのだが、同じセスでもセス・ローゲンなら悪し様にののしりそうなところを、あれやこれやと説得することでなんとかしようとするあたりが、これもまたマッチョ否定なんですね。


 『TED2』ではヒロインのはずのアマンダ・セイフライドが、まあ実に中身ない感じの女の典型な役で、次は大丈夫なのかと不安になってしまったね。そのアマンダと新しく付き合って、セスをいじめるヒゲの男ニール・パトリック・ハリス、先日カナザワ映画祭で『スターシップ・トゥルーパーズ』を見たところだったので、健在ぶりに驚いてしまった。当時から嫌な奴の素養はたっぷりだったが、今作では満開ですね。


 全役者、紋切り型ながらそれぞれ得意の分野のキャラをやっている感じで、ハマっていると共に、日頃の役柄のパロディにもなっている。さらに、カメオ出演も連発! あの映画のパート3のネタと、最後のあの人にはウケてしまったわ。
 全然期待してなかったが、まずまず楽しめて良かった。クマ映画もまた楽しみにしてます!

テッド(字幕版)

テッド(字幕版)

クロエ (字幕版)

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