”仮面の男”『FRANK』(ネタバレ)


 マイケル・ファスベンダーが主演?してる?映画。


 会社勤めの傍ら、ミュージシャンをミュージシャンを目指すジョー。ひょんなことからあるバンドにキーボードで参加することになるが、そのボーカルはかぶり物をかぶった男だった……。フランクという男の才能に惹かれ、ジョーは彼の誘いに乗ってレコーディングに参加。しかし、一年も山小屋で缶詰にされることに……。


 なにやらハリボテの顔をかぶっている男がいて、それがマイケル・ファスベンダー……らしい! 顔が見えない! でも一応、主演です! ミュージシャンで、彼がボーカルを務めるグループに、キーボードとして加わるのがドーナル・グリーソン。
 作曲をしているのだが、全然芽が出ないドーナル・グリーソン、バンドのキーボードの自殺未遂の現場に遭遇し、代わりに参加することを申し出る。飛び込み同然でライブハウスに行って、リードボーカルのフランクに気に入られ、正式にメンバーに加わることに……。


 一見、サクセスストーリーのような出だしなのよね。成功を夢見る男が、運命の出会いを経て自分の道を見出す……。当初は不安要素が山積みなのも、これは乗り越えるべき障害なのだ、ということになってしまう。レコーディングに参加したら、山小屋にこもって一年がかり。仕事もやめないといけない……やめます! その間の家賃が払えない……僕が払います! マネージャーが自殺……僕がセッションの動画をyoutubeに上げてます!
 フランクという人には、かぶり物をかぶってておかしなところもあるけれど、確かに才能がある。キーボードから始まり、資金を出してマネージャー的役割をこなすようになるグリーソン君を、古くからのメンバーのマギー・ギレンホールは、「フランクの才能にぶら下がってるだけ」と批判する。それは一面では正しいのだが、彼女自身にも素晴らしい才能があるわけではない。では、ドーナル・グリーソンとマギー・ギレンホール、二人の役柄の違いは何か……。


 人間関係と言うと陳腐だが、表情が見えず「今、嬉しい表情」とか口で言っちゃうフランクの心の中は、付き合いの浅い人間には見えているようで実は見えていない。ましてこのグリーソン君、歌詞も見たままでしか作れなかったりする圧倒的な詩情のなさ。これで人の気持ちがわかるのか……。
 しかし、投資を重ね時間を注ぎ込み、今までの人生をぶち壊す勢いで「フランクの音楽」に賭けてきた彼は、もはや立ち止まることは出来ない。そもそもアルバム作りの時点から順風満帆などではなく、舞台をテキサスに移してからはマイナス要素がどんどん積み上がっていく。何とか成功してほしい、という思いもその辺りまではあったのだが、途中からは「そろそろ後退戦へ移行すべきでは……」という気持ちが強まる。
 ドーナル・グリーソンは、『アンナ・カレーニナ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130408/1365422119)でも『アバウト・タイム』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20141005/1412511643)でも圧倒的なまでの凡人力を発揮していて、今回も気の毒なくらい才能のない人。もちろん成功できないが、当初は目標としていたバンドの輪に入ることもいつしか忘れ去ってしまっている。
 youtubeに映像を上げて、「12000再生だ!」と喜んでいたら、「……それ大したことないよ」と言われてしまうところがまた痛い。ファンが詰めかけるかのように錯覚していたけれど、誰にも知られていない。世慣れていないメンバーに代わってプロモーションしてたはずが、自分こそが常識的なことを知らなかったことまで露呈。メンバーの内輪もめをアップして再生数こそ増えたが、完全な色物扱いで、誰も音楽になど注目していなかった……。


 かぶり物を外せないフランクは、もちろん精神的疾患を抱えているのだが、作曲できずにくすぶっていたグリーソン君のある時期からのハッスルぶりも、ある種の躁状態のようで、思い出したのは『それでも、愛してる』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120806/1344168200)。ビーバーの心の声を聴いていたかの映画に対し、今作でのグリーソン君は、フランクのかぶり物のありもしない表情に、自分の思いを過剰に投影し、暴走していくようでもある。


 フランクさんはフランクさんに過ぎず、誰も彼にはなれない。そこはかぶり物をかぶって自殺するマネージャーの行動にも示唆されている。それなのに、自身と彼の夢を同一視し、否定されても諦め切れず突っ走ってしまうことの悲しさ、危険さ……。
 悲劇はすんでのところで回避され、フランクにも回復が示唆されて物語は終わる。凡人は、自らの夢が破れたことを噛み締めて、ただ去るのみ……。


 コミカルな絵に反して、物悲しくも苦いストーリーで、顔こそ出てないけど、笑っている時も泣いているようなマイケル・ファスベンダーには、まさにはまり役であったな、と終わった今となっては思う。

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