”決して吊るされない”『サスペクト 哀しき容疑者』


 コン・ユさん主演作!


 元・「北」の特殊工作員でありながら、脱北し韓国へとやってきたチ・ドンチョル。密かに暮らす彼は、ある目的を胸に秘めていた。それは、妻子の仇を見つけ出す事……。だが、「南」での恩人であったユン会長が何者かに殺され、現場に居合わせた彼は容疑者にされてしまう……。


 コン・ユと言えば、ドラマで茶店やってたり、『トガニ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120826/1345874382)では学校の先生だったり、美男だがヤワなイメージ……だったのだけど、今作は超アクション巨編です。「北」の特殊工作員だった男が「南」に亡命。そこで殺人が……。
 コン・ユさん、彼を宿敵として追う「南」のテロ対策班、脱北者を取材するジャーナリスト、そして事件の影で動く黒幕……四つ巴の争いが展開される。


 最初、殺人の容疑者として追われるコン・ユさんだが、もちろん裏があり、彼が南へとやって来た謎も徐々に解き明かされるように。
 ハードなアクションから、南北問題、政治的力関係、家族愛……あれこれ盛り込んでいるのだが、実は王道の話。最初に疑われる人は実はいい人で、嫌な奴はとことん悪者、死んだと思われてた人は生きてて……という調子で、ひねりはあるけど全て予定調和的で、安心して観ていられる内容。
 ……なんだが、なぜか二時間二十分近くあるんだよなあ。さすがにこのシンプルな王道ストーリーで、二時間超えるとどうしてもくどくなる。ここで笑わせよう! 泣かせよう!という力みが透けて見え、特にクライマックスは、わかったわかったもういいから……と思ってしまったよ。


 コン・ユさんのビルドアップした肉体は素晴らしく、首吊りから脱出するシーンの筋肉の盛り上がりには驚いてしまった。全てのシーンに共通するのだが、止まっている「静」の段階の絵は非常に美しく、緊迫感に満ちている。が、どうも「動」となると途端にチャカチャカとカメラ動かして、編集で切りすぎになるのよな。また『ボーン・スプレマシー』(観てないけど)のダメなフォロワーが生まれてしまったのか? カーチェイスシーンで撃たれた人が仰け反り、あっ、コン・ユさん撃たれた!と思ったら、同じように細い別の人だった……というオチが何度もあったので辟易。あれは、動体視力が良ければちゃんと見えるのかなあ。


 あまり大きく期待しなければ充分に面白いのだが、もう一つ上積みがなく、『ベルリン・ファイル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130719/1374220702)の物悲しさ、『アジョシ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111009/1317816944)のスタイリッシュさ、『悪魔を見た』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110310/1299668050)の残酷さがなく、もう一つ何かないと傑作にはならんなあ、という印象。ところで、ウォンビンは『アジョシ』以降、アクションどころか映画自体から遠ざかっているのだが、コン・ユさんはぜひともこの路線で頑張っていただきたい。

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