”サムライたちに敬礼!"『るろうに剣心 伝説の最期編』(ネタバレ)


 シリーズ三作目!


 京都大火は囮だった。鋼鉄艦で出撃した志々雄一派は砲撃を加えながら東京を目指す。薫と共に海に投げ出された剣心は、流れ着いた浜辺で、かつての師、比古清十郎に救われていた。自らの無力を嘆き、奥義を求める剣心に、比古は自らに欠けたものを見出せと告げるのだが……。


 一作目(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120831/1346340484)惨敗、『京都大火編』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140809/1407580829)は事実上前半だから粗が見えにくかったわけですが、さあさあ、真価の問われる三作目です。前回ラストで、まさかの鋼鉄艦出港!となり、原作の筋からは多いに逸脱することが決定。そこは少年漫画と映画のフォーマットの違いで、敵のアジトに乗り込んで、一対一の戦いをいくつも繰り返す、という原作の筋は、そりゃ映画にはならんよね。同じく、戦いの度に脇のキャラが横で必殺技解説をしてくれる、というのも、まさに少年漫画で、映画はそこのところを絵で見せて行かねばならない。
 原作と流れが違うので、それなりに話の先が読めなくなったことと、前作が前振りレベルに見えるアクションシーンの総仕上げっぷりが加わって、比較的テンポは良くなっている。あれっ……と思いかけたところでチャンバラ、えっ……と思った瞬間に次の対決が始まるので、とりあえず退屈はしなかった。まあ話の面白くない映画というのはあるもので、途中を我慢して、怪獣が登場したり銃撃戦が始まるのをひたすら待っている……というのは、まあよくあることである。そう考えると、いったい何のために出てきたのかもわからない四乃森蒼紫なども、多少の存在意義はあったわけだ。


 今回はアクションも多対一から、名のあるキャラの一騎打ちが中心にシフト。前回は少々振り付けが先走ったような感もあったが、今回はよりこなれてきた感あり。ワンカットもどんどん長くなり、空間の使い方も広いところは全力で移動し、狭いところはその狭さを活かすようにして成立させている。しかし、距離が詰まるとやたらと蹴りを飛ばすところは、こりゃあ『るろうに剣心』じゃなくて『無限の住人』の殺陣だろ……という気がしましたね。谷垣健治氏にはぜひ次回作で撮ってもらいたいものである。たぶん、そっちの方が向いてるよ……必殺技ないからな、あの漫画は!


 さて、今回は海に流れ着いた剣心を、たまたま福山雅治演ずる師匠が拾う、という前作ラストからスタート。これ、たぶんラストにサプライズ登場させるのありきで、それから話をでっち上げているから、あそこに現れたのは単なる偶然なのね。薫を救えなかったことを悔やむ剣心は、奥義の伝授を師匠に請う……。
 うーん、まず薫が死んでしまったとしたら、この人は廃人になっちゃうはずじゃね?と原作読んでたら思うところですわね。後々立ち上がるとしても、そんな簡単じゃないわけで。もちろんその薫はまた「偶然」助かってることが割とすぐにわかるんだから、あの最後にさらわれてバタバタしたのはいったい何の意味があったのだろうか。さらに、「志々雄は愚か、手下にも勝てない!」と言うのだが、それはもうかなり前からわかってたことじゃないのだろうか。勝てないから新しい刀以外にも奥義が必要、とわかってたなら、なんで原作通り師匠を探さないのか。で、翁はすでに師匠の居場所を知っていたようなんだが、そりゃ何で? 単に一言、前作で「師匠を探してください。奥義が必要」「わかった、探しておく!」とやりとりしとけばあっさり筋は通ったと思うが……。
 だいたい、たまたま出会ったからついでに奥義教えて欲しいでござるよ!って、そんな虫のいいこと言われても絶対教えないわね。原作でもまあ虫がいいっちゃいいけど、心を入れ替えて頭を下げに来た、という体裁は整っていたわけで……。あらゆる技が異様に軽いレベルの扱いになった前作以降、漫画では重要なファクターだった奥義も、ラストでなんとなく出すためのものでしかなくなっているから、こうやっていい加減な扱いをされているわけだ。


 正直、こんなレベルの脚本のグズグズっぷりがずーっと続くので、かなり辛い。進めば進むほど悪化していく。
 御庭番集の抜け道を剣心に教える→蒼紫が待ち構えているから、怪我した翁が先行する→後からきた剣心と蒼紫が戦う、という流れも、どうもおかしい。そもそも翁はこの二人を戦わせたいのかそうでないのかよくわからん。原作では「殺してくれんか」「いや、連れて帰る」という、なかなか感動的なシーンがあったのだが、映画では蒼紫とまだ初対面も済ませていないのだよね。
 剣心と蒼紫を戦わせたくないなら別の道を行かせればいいと思うし、戦って欲しいなら自分が出て行く必要がないし。もう爺さんは怪我で錯乱してしまったのだろうか……。そして、驚くべきことにここで翁は死亡し、もう出てこないのであった。おおおおおおお……一気に原作を逸脱したぞ……。しかも何の意味もなく……。
 さらに、せっかく蒼紫と戦うという大変な苦労をしてこの道を突破した剣心だが、その後、普通に傘被って東海道を歩いているう〜! これだったら、京都の街中歩いても、別に大丈夫だったんではなかろうか。まだ大火からの復興でバタバタしてそうだし……。あの抜け道さえ通らなければ、今頃まだ蒼紫は「抜刀斎はどこだ〜! うが〜!」言ってただろうし、翁も死ななかったのではなかろうか……。
 ところで、蒼紫を倒したのは、あれは一応、九頭龍閃だわね。九連打になってたし……。原作における、奥義を出さなくても九頭龍閃だったら回天剣舞六連に押し勝ってたんじゃないか問題へのアンサー……でも最後は突いてたけど、いくら逆刃刀でも突きは刺さっちゃうんじゃないかなあ。


 偶然助かってた薫がここでタイミング良く目を覚まし、「行こう! 東京へ!」と言って、左之助たちも着いて行く……のだが、なんで東京なんだろうね。志々雄は浦賀水道って言ってるのだから、ここは横浜じゃないの。そして、なぜかいちいち道場に戻ってくる剣心……。これはお話的には「着替えを取りに一回帰った」であり、大人の事情的には「蒼井優を出すのがここしかなかった」からだよね。どっちにしろおかしいよ! そしてなんか無駄な立ち回りやった挙句、結局わざと捕まる剣心……。


 そして、志々雄一派の要求に応じ、剣心の罪状を並べた挙句に斬首するという、クライマックスへ突入。まあこれは狂言なわけだけど、民衆の人がごっつい殺せコールしてたのに途中でやめちゃって、明治政府的にはいいのだろうか。そのあと抜刀斎は死んだと発表するにしろ、人斬りを逃がしたというのはまずいのではなかろうか。また剣心個人としても忸怩たるものがあるのではないかな。この後、志々雄の兵士に民衆が襲われたところを剣心が助ける、というシーンでもあれば良かったが。
 しかしこの狂言を見抜けないように、わざわざ方治を頭悪いキャラに改変したのかな、という気がするし、志々雄も普通なら見届けに出て来そうなものなのに、なぜか船から動かないのね。で、この後も対応遅いな! 原始的な小舟で煉獄に乗り込む剣心だが、なんの迎撃もない。いたずらに砂浜には砲撃が降り注ぐが……。そして陸からの砲撃も回避する様子もなく撃たれるままで、志々雄様も何の指示も出してる様子なし……。


 船内では、前回の決着戦、宗次郎vs剣心。いや、ここも単体のアクションとしてはいいんだけど、これもまた少年漫画とアクション映画のフォーマットの違いが浮き彫りになったな。「縮地」を表現したのが宗次郎の脚力とステップワークということになっているが、これを封じるために脚から崩していく……というのは、普通のアクション映画ならば大いにありなロジックである。……が、これは『るろうに剣心』なんですよ。緋村剣心というキャラクターの不器用さの表現として、相手の全力を敢えて受け止めて勝負するという気構えがあるのに、それを全く無視している。だいたい、脚を攻めて作戦勝ちするなら、新しい刀も奥義も関係ないではないか……。そしてこれからの人生云々と説教! うざいっ!


 浜辺では全然台詞のなかった宇水さんと、江口斎藤の対決(ちなみにこの前に、普通の身長の不二がやられてます)。今回は不発じゃなかった牙突! でも相変わらず腰は引けてて全然突進技に見えないし、なんかすれ違ってるし! やっぱダメだこいつは……。


 さらに、まったく存在感のなかった安慈は、やっとここで台詞。船内で左之助と対決! いっさい因縁はなく、みんな大好きなあの技ももちろん登場しません。左之助は、お笑いを担当しつつも主人公の引き立て役ポジションに収まらないところまで育ったキャラクターだったのに、今作ではうるさい上に頭も悪いキャラのままであったなあ。この対決もまったく無くていいレベルで、しかも決着がくすぐった上に金的という、非常に寒い笑いを見せられてドン引きしました。いや、これを実際にやって面白いのはジャッキー・チェンだけですから!


 いやはや、原作ファンを完全に舐めくさっているどころか、週間連載で読んだ記憶を頼りに書いてるんじゃないの、というシナリオだな……。ちょっとでも読み込めば、こんんな話にはならないと思うんだが……。


 そんな中、藤原志々雄だけは、竜ちゃん節が舌好調。乱入してくる左之助、蒼紫に「誰だてめえ〜!」と連呼。さすがだ! ここだけ観客とキャラの気持ちがシンクロした! さらに、今回全然アクションのなかった操ちゃんに変わり、ドニー・イェンが憑依! 出た! 必殺の空中回転回し蹴り! さらに空中での膝蹴り連打! やったぜ竜ちゃん! 四人相手にも圧倒! でも江口斎藤がやっぱり腰引けてて、いまいちガチ感が薄かった。
 しかしここでも「俺の無限刃がある限り〜」と、前振り一切無く発言する脚本のダメさに辟易しました。これも青空さんか張にでも、「これこれこういう刀が」と解説させとけば良かったのにな。
 で、もう出てこないんじゃないかと思ったけど、一応出ました、奥義・天翔龍閃。でも、一回回ってから、左脚踏み込んでたよ。順番おかしくね?


 バンバン砲撃されている煉獄の中、志々雄と由美さんは原作通りの最期を迎えるが、宗次郎、安慈、方治あたりも、沈む船から脱出した描写はないんだよね。安慈の唯一のまともな台詞では、このメンバーは明治政府への恨みなどで志々雄と一蓮托生の関係というニュアンスで語られており、それに則れば全員死んだことになるな……。宗次郎にもあんだけ説教しておいて……。


 伊藤博文のキャラもひどかったな。この人物をいったいどう描きたいのか、全然伝わらなかった。酷薄な政府の象徴ならもう少し賢く描くべきだし、維新志士にシンパシーを覚えるウエットさを描くならもうちょい人情味が必要だろうし、どっちつかず。
 ラストの敬礼は、ついつい『ガメラ2』のラストと比較してしまうが、自分らで砲撃してまとめて沈めようとしておいてから、やっぱり帰ってきたから敬礼なんてしても、腹立つだけではないか。伊藤が砲撃を制止する役に回ってたか、あるいは伊藤の指示でなく自発的に警官たちが敬礼するなら、まあまあ筋は通ると思うが。それでも、求めていたのはそんな敬礼などではなく人々の平和であり、緋村剣心はただ己の帰る場所へと去っていく……というラストであるべき。
 んん〜、せっかく全然キャラが違ってチンピラになっていたんだから、ここは江口斎藤あんちゃんが、がつーんと伊藤に鉄拳を食らわせる、悪・即・殴というありえないラストにしたら、まだ好感度が上がったのではなかろうか。


 いやまったく……しょうもない……。全然ダメ。アクションも原作の精神が全然表現できていない。やっぱりネオ時代劇は『無限の住人』でやるべきだったと思いました。発行部数一桁違うだろうけどな!
 原作『るろうに剣心』は、和月伸宏の初の長期連載であった出世作で、正直、今読むと拙さや、いかにも若書きな青臭さがあちこちに見える作品である。だが、コミックスのくどくどしいキャラ解説を読まずとも、若書きなりに苦心惨憺し脳味噌を振り絞って考え尽くした感が見え、そこは嫌いではない。が、この完結編は、その苦心の末のストーリーやキャラをケツから犯したような代物だったな……。『京都大火編』で一作目よりマシになったような気がしたけど、前後編で一本と考えたら、やっぱり一作目の方がいくらかマシだったような気さえしてきた。


 まあでもせっかくだから、もう一本作ったらどうかなあ。まだ縁編が残っている! 三號夷腕坊観たいなあ! やっぱりバツイチの過去は描かないとだし、武井咲の心臓貫かれた死体をみんな観たいよなあ! おーっ!

るろうに剣心完全版ガイドブック剣心皆伝―明治剣客浪漫譚 (ジャンプコミックス)

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