”誇りを胸に”『ケープタウン』(ネタバレ)
元著名なラグビー選手の娘が、何者かに撲殺される。アパルトヘイトの傷痕も生々しい南アフリカで、アリ警部は酒浸りのエプキン刑事らとチームを組んで捜査に当たる。捜査線上に浮かぶ未知の麻薬を追った先には、黒人の子供たちが次々と姿を消す事件が姿を見せ、事件は混迷を深めていく……。
父を白人に殺されたことが示唆されるフォレスト・ウィテカー演じる刑事は、ズールー族と呼ばれる部族の末裔で、母と暮らしている男。物静かで有能で仕事人間で……だが、彼には誰も知らない秘密がある。
そのチームにいるオーランド・ブルーム。結婚は破綻し息子にも別れた妻にも全然信用されず、自分は毎日違う女を連れ込んでる自堕落な男。やっと『グッド・ドクター』みたいなキャラを脱却し、新境地ですね。やさぐれキャラ。
絵面だけ見ると、よくある黒人と白人の刑事のバディもの、正直食傷気味だな、と思うところだが、今作は邦題どおり南アフリカ、ケープタウンが舞台。まあほんと、舞台がアメリカから変わると同じような筋みたいでもこんなに違うものか、とちょっとびっくりしちゃいますね。
『第9地区』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100414/1271246089)や『マンデラ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140608/1402227822)でも登場した、黒人が多く住む掘っ建て小屋の町並みと、オーリーの元妻と歯医者ら白人が暮らす大豪邸のギャップ。黒人のギャングたちのぶっ放しっぷりが見慣れたアメリカ映画と比べてもうひとつ過剰で、それはより根深い貧困のゆえなのか。果たして、その貧困層が、単に搾取の対象となって貧しいという以上に、よりおぞましい実験に利用されていることが明らかになる。
その事件に触れるにつれて、主人公である対照的な二人が、徐々に違う面を見せ始めるあたりが良い。まあフォレスト・ウィテカーはさすがの演技で、非常に紳士的で温厚でありながら、その裏に溜められた鬱屈が徐々に膨らんで行き、最後にはかかる形で爆発するまでの「揺れ」を表現する。
かつて白人によって父を殺され、自らも「去勢」され男としての機能を失った彼が、その男性性を発揮できない痛みに悩みつつも、信仰と非暴力を掲げる境地にたどり着いていた。だが、今作の事件によって、もう一つ秘められたアイデンティティである「ズールー族」としての血が目覚める。もちろん、それは比喩的な意味であり、彼自身、内心のどこかで復讐心を溶岩のように滾らせていたのだろう。父に続いて母まで失い、ついに正義感だけでは収まらない、自分たちを食い物にする白人への怒りが爆発する。それはまさに『セデック・バレ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130529/1369745972)のセデック族のような、現代人とは違う価値観の発露であり、「野蛮」への回帰とも言える。暴力を喚起する麻薬をばらまいていた男が、薬によるものではなくより原始的な暴力によって息の根を止められる結末は、実に皮肉である。
ケンカっぱやそうだったが、実は銃に弾を入れていないオーランド・ブルームが、だんだんと相棒を止める側へとシフトしていき、自らはろくに顧みていなかった妻や息子、そして死んだ父への心の整理をつけるあたりの変化も、彼の演技としては今までにない部類。この人も永遠の青年という感じで、今作は息子が高校生だったりして超似合わねえ〜! ヒゲなんか生やして……。とはいえ、新境地として今後も追及していってほしいですね。
原作あり、非アメリカということで、ハリウッドサスペンスとは一味違う秀作。こういうのはちょくちょく観たいな。
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