”ウラミハラサデオクベキカ”『喰女』


 海老蔵主演作!


 スター女優の後藤美雪は、舞台劇『真四谷怪談』のリハーサルに、恋人である長谷川浩介と共に臨んでいた。リハーサルが進むうちに、二人の関係は四谷怪談の伊右衛門とお岩の関係をなぞるかのように、生まれ始めていた距離を少しずつ増していく。やがて、浩介は新人女優の朝比奈莉緒と関係を持つようになり……。


 舞台劇「四谷怪談」のリハーサルと、主演俳優たちの私生活が並行して描かれる構成。果たして、伊右衛門がお岩の知らぬ間に彼女の父を斬り殺して家に入り込み、やがてはその常軌を逸したイケメンぶりから彼女を裏切って若い女の家に迎えられ、邪魔になったお岩に毒を盛り、按摩との痴情をでっち上げて殺すというストーリーが丁寧に語られる。
 海老蔵演じる主人公の男優は、主演女優である柴咲コウと周囲にも公認の仲。お互いの部屋を行き来している、そこそこ長い関係。柴咲コウは時々、子供や家庭を持つことを匂わせるのだが、海老蔵はまったく興味がない様子。そして、伊右衛門が若い女に流れたのと同様、海老蔵もまたその役を演じている新人女優と関係を持つように……。


 この両ストーリーを鏡の如く対比させ、現代の「四谷怪談」を描く……というのが狙いだったのであろうか。しかしながら、伊右衛門は作中だけで最低四人の人間を殺している人非人なのだが、実在の主演男優は二股こそかけているが殺人も詐欺もしていないし、恨みによって呪い殺されるほどの悪人ではない。「子供……? いたら幸せなんじゃないの……?」と気のない風につぶやく姿が、全くもって現代の何も考えてない男のようで、また「俺、役者しかしたことないし……」と語るあたりも、何とも無邪気。
 ただ、このキャラクターはそうであるけれど、あるいは市川海老蔵本人はまた違うのかもしれないね。数多の女を泣かせ、あるいは人生を破壊した、まさに「現代の伊右衛門」になぞらえられる何かが、芸能界で知られる海老蔵本人にあるのかもしれない……。


 さて、捨てられつつある柴咲コウだが、お岩のように子もいないから繋ぎ止める材料もなく、次第に錯乱し始める……。海老蔵は彼女の付き人のマイコにもちょっと色目使ってる風でもあり(あれ、あたくしには妻夫木さんが……!)、さらに新人女優とは完全にできてしまう。恨みはらさでおくべきか……!
 海老蔵vs柴咲コウと新人とで、二回ベッドシーンがあるのだが、暗いし、乳は隠すしでいかにもPG12でありました。しかしまあ、乳の隠し方に工夫があったり、肝心なものを映さなくても「積極的に体位を変える」絵面で、まあまあやらしくなるもんですね。
 その反面、グロシーンは割と頑張っていたかな。クライマックスの切り株よりも、途中の胎児摘出未遂の方が痛々しく、これは苦手な人はスルー推奨です。


 四谷怪談という物語に出演したことで、役に入り込む主演二人がその狂気に飲み込まれていく……という話にも見えないこともないのだが、如何せん、二人のキャラが物語上の伊右衛門とお岩と乖離しているので、いつまでたってもシンクロしてこない。それでもついに二人は物語の狂気に飲み込まれる……というラストかと思いきや、えっ、という肩透かしを食わされて映画は終わるのであった。
 これはあれだな、現代の男が伊右衛門ほど悪くなくてさばさばしていい加減なのと同様、現代の女もお岩みたいに嫉妬や呪いで狂ったりせずもっとタフなもんですよ、という話として捉えると、まあまあスッキリするような気がする。海老蔵のキャラに暗い裏設定を読み取るのはまだ可能としても、柴咲コウが別に大女優にも愛憎に狂う女にも見えないので、こういう現代的なキャラこそが落とし所なのかな。


 ちょっと焦点がボケすぎで、クライマックスが盛り上がらず、せっかく『着信アリ』のテレビ収録で盛り上がったところをずっとやり続けるような構成も、討ち死にした感あり。出だしは面白くなるような気がしたんだがなあ。久しぶりに三池映画を観たけれど、上手いのか下手なのかよくわからんところが混在しすぎで、まあまあこういうテイストだったっけか……。

着信アリ(通常版・2枚組) [DVD]

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