”崩壊の足音が聴こえませんか"『るろうに剣心 京都大火篇』(ネタバレ)


 人気漫画の映画化、第二弾!


 かつて緋村抜刀斎から影の人斬りを引き継いだ男、志々雄真実。明治政府によって葬られたはずだった彼は、全身に火傷と無数の傷を負いながら生き延び、今や巨大な私設軍を率いていた。明治を再び動乱の世に叩き込もうとする志々雄を止めるため、大久保内務卿はかつての同志緋村剣心を呼び戻そうとする。迷う剣心だが、大久保が暗殺の凶刃に倒れたことで、ついに立つ……!


 前作(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120831/1346340484)は主に江口洋介牙突問題で散々批判したが、その江口君が冒頭から登場〜! 前作でえらそうだったしょうもないキャラが続編冒頭で咬ませ犬になる、というのはよくある構図だが、一応斎藤一というキャラクターにはまだまだ活躍してもらわないといけないので、ここでは周囲の警官が壊滅させられる展開に。江口洋介は指揮を取ってるのかな、と思いきや、「本当にここでいいのか」とか言って単に呼ばれて来た助っ人扱いで、しかも目の前で警官すべて人質に取られ全滅させられるという大失態。後でその警官たちの死体を前に佐藤剣心に、「志々雄真実がいる限り犠牲が……」とか何とか言うのだが、いやいや、おまえが棒立ちだったせいじゃないの……。相変わらずひどい脚本だな……。
 しかしこのオープニング、志々雄側のハッタリとしては割といい出来で、宗次郎や安慈の顔見せ、炎のイメージと残虐性の表現などは良かった。上にいるお坊さんの大群はいったい何者なのかまったく謎であったが……。
 割と最近、大河で殺陣をやってたせいか、今回はノーアクションというわけにはいかない江口君も、雑魚相手の殺陣はまあ普通にやっていたね。数人を蹴散らし、そして満を持して牙突……さあ、今度こそまともな牙突を見られるのか、それともやっぱりちんぽろすぴょーんと上空に飛ぶのか、手に汗を握ったのだが、櫓が崩され前進を阻まれたせいで不発に! いやいや、前みたいに飛んだら飛び越えられたんじゃね、と思ったが、ここを不発で済ませたのは素晴らしい! 気の抜けるような技を見せるぐらいなら、これで充分ですよ。が、改めて江口牙突のポーズを見直すと、一見決まっているように見えて、実はまったく前方に突進しそうな溜めが作れていないので、採点は20点とします!


 この後は東京に戻り、舞台劇を鑑賞する剣心たちの日常パート。全然関係ないんだが、このシーンは香港映画でよくある、京劇や獅子舞、大道芸などを道でやっている日常描写を連想させて、なかなか嫌いではない。しかし、通りすがりに画面に映るぐらいにしておけばいいのに、なぜかここも延々撮っていて、相変わらず台詞回しのくどさや、表情の撮り方の長さが辛いのだよな。
 今作はさすがに大長編ぐらいのボリュームのある志々雄編を、前後編とは言え詰め込んでいるので、お話がどんどん転がっている間はさほど気にならないのだが、邦画らしい説明癖は根本的なところでは解消されていなかったですね。


 さて、お楽しみのアクションシーン、剣心が多数を相手にするシーンのスピード感は素晴らしく、今回は宗次郎戦が短めで張戦が刀なしのハンデ戦なこともあって、多数相手のシーンの方が長め。京都のシーンの乱戦なども、ワンカットで何手も続くところがあり、難易度高そうなところをうまく処理していたね。
 一対一も宗次郎戦は短めな分、凝縮されていて、体格も身体能力も近い二人が、自然と演武的に鏡に映したような動きになる、というあたりが良かったですね。佐藤剣心は、抜刀術直前の地を這うような構えを何回も見せていて、これは映画オリジナルの様式美として定着させたいという狙いが見えましたよ。
 ただ、張戦はちょっと長めで、刀がないから苦戦している、という表現としては、元々の張の実力が伝わらないのと、原作の刀なしでも序盤圧倒する描写とのギャップで、少々もたついて感じられたところ。龍巻閃は出して他の技は出さず、張の方も薄刃刀はないあたり、中途半端な再現もネックでありました。
 原作漫画の必殺技、武器描写はこのあたりからどんどん多様化というかエスカレートしてきたわけだが、どうも映画は無理にそれに合わせずに、現実的な描写に留めようとしている模様。その中でも無理なく再現できそうなところは再現する、という方向性になっているのだろうが、ちょっとどっちつかずではないか。そして、このレベルで再現云々を言うなら、二重の極みや天翔龍閃は存在ごと抹消されそうな気がするな。
 縮地はおそらくちょっと身軽な人レベルであのステップワークに表現されているだけで、瞬天殺は出ても名前だけでカット。左之助と安慈の絡みはダイジェスト的に残るかどうかギリギリだが、斬馬刀持ってるぐらいだから二重の極みはもうカットかな。牙突零式は逆に複雑な殺陣をやらずに誤魔化すために出すかも?最後に師匠が出てきたんだから、さすがに奥義の伝授はやると信じたいところだが……。


 クライマックス付近の展開、原作では志々雄の企みを剣心が看破し、京都大火が囮なのを見破って鋼鉄艦発進を阻止する、ということになっていた。映画では、全員がその囮の京都大火に乗せられて戦力を集中してしまい、気づいた時にはすでに遅し……というはずだったのだが、なぜか宗次郎が薫をさらって、わざわざ剣心を鋼鉄艦に連れて行く、という意味不明な展開に……。しかもそこで薫は海に突き落とされ、剣心もそれを追いかけて飛び込むというまた謎な展開に……。
 志々雄メイクの藤原竜也だが、演技はどんどんいつもの藤原竜也化して行き、それが「なにがござるだああああ!」とか「ここに来て心中まがいかあ!」など、おかしな脚本にツッコミを入れるようなものになっているのが不思議な手触りでしたね。


 しかし、これで鋼鉄艦は発進してしまったので、後編は原作からガラッと逸脱して、東京砲撃を阻止するための時間制限ありバトルになるのであろうか。正直、原作の敵のアジトに乗り込んで一対一の戦いを延々と繰り返す、というのは週刊連載の漫画だけで充分なので、もしそうなら歓迎したいところ。剣心の戦う相手も、宗次郎と志々雄で充分ではないか。
 が、鋼鉄艦を追う時限式サスペンスをやるなら、奥義習得のためにチンタラ修行するなど不可能になってしまうわけで、やっぱり奥義はカットかなあ……。師匠からは心構えだけ伝授されるということで……。


 前編ということで、要は映画は半分しか終わっていないのだから、ここまででは評価しづらい部分も多い。ある程度、前作から改善されているように見えるところも多いのだが、それら全ての問題点が、もしかして後編でまとめて噴き出してくるのではないか、という気もする。


 そういう問題点以前に、四乃森蒼紫の扱いは最悪だったなあ。斎藤が前作で出ちゃったので、代わりに左之助をボコる役回りになったのはいいが、十年も剣心を追い回して今までまったく成果なしだったのが突然現れた、という設定がまずアウト。さらに、修羅と化して……とか何とか言ってもその前段のまともな時代がダイジェスト映像だけなのでこれもアウト。そして演技が「どこだ〜!」とターミネーターみたいに叫ぶだけなのも酷すぎでアウト。これだったら出さない方がまし。翁戦もまったく話と関係なくて、なんとなく回天剣舞六連だけは出したから、六点ぐらいは進呈したい。このシーンも途中までは良かったのだが、転げ落ちた弾みでなんとなくトンファーを落としちゃったのには辟易したなあ。トンファーが陰陽交差なり何なりで破られ、苦肉の策として竹槍を使うという流れだったら良かったのに。いちいちロジックがあってバトルが展開していくのが少年漫画の面白いところで、それを単に説明的にならないようにアクションの絵で見せていくあたりが腕の見せ所なのに、なんとなくが多すぎるのがもったいない。
 さて、蒼紫様に対し、操役の土屋太鳳ドニー・イェンリスペクトの空中蹴りなど出してなかなか良かったので、後編では操ちゃんが翁の敵を打つべく、修羅となった伊勢谷友介を蹴り倒すという展開でいいのではないか。いや、あまりにも剣心と戦う必然性がなさすぎなんで、このキャラは早々に片付いてもらったほうがいいと思います。


 十本刀は方治のキャラが気持ち悪く改悪されて香川照之もどきになっていたのが意味不明であったが、あとはまあ許容範囲か。不二はちょっと大きいぐらいの人で、才槌さんが大型化したことでバランスを取っている(?)。鎌足は女優が配役されていて、武器は刀になっていましたね。蝙也はちょっと小柄な人。夷腕坊は普通の人だったが、是非とも続編では着ぐるみだったことにしてもらいたい。あとは宇水が活躍出来るか……。


 さあ、後編では、おそらく原作カットの度合いがどんどん加速していくことになるが、果たして、まとまりや如何に……。数々の要素を整理しすっぱりとまとめるか、描き切れずに崩壊するのか……。個人的にはあまり期待していないし、崩壊する方に今月の労賃9万1000ペリカを賭けたいですね。