”希望は戦争”『ワールズ・エンド』(ネタバレ)
エドガー・ライト最新作!
20年前の学生時代、仲間と共に街の12軒のパブ巡りを目論んだゲイリーだったが、あえなく挫折。時を経て、再び四人の仲間に声をかけ、故郷へと舞い戻ってくる。だが、久しぶりに帰ってきた街はどこかよそよそしい。若い頃から大物ぶっていたゲイリーは憤慨するのだが……。
昨年のしたまちコメディ映画祭で上映された映画が、ようやく公開。おなじみサイモン・ペグ、ニック・フロストのコンビを主軸に、かつての五人組が(サイモン・ペグ一人を除いていやいや)集結し、故郷の街でパブ巡りをするというお話。
サイモン・ペグのキャラがひたすら痛くて情けなく、もういい歳でアル中の更生プログラムを受けているのに、昔のやんちゃだった頃の自分が忘れられずに、もうそれぞれの生活を見出しているかつての仲間たちを連れて故郷に舞い戻る。もはや故郷は様変わりし、彼を覚えているものは誰もいないのに、昔同様に偉ぶるのだが、その大物ごっこがまた痛々しい。母親が死んだと嘘をつき、飲み残しのビールにまで手を出して……。
今まではニック・フロストと仲がいいキャラクターを演じていたが、今作では小さくない距離感が生じている。結婚し、仕事を持った他の四人は、彼の勢いに負けてパブ巡りに参加するものの、弾け切ることができない。ああ、なんと切ないお話。いつまでも大人になれない酔っ払いは、愛想をつかされて見捨てられる運命か……。
だが、実は街は宇宙人に侵略されつつあり、その魔手はまるでスターバックスのように均質化された街のパブにまで及んでいたのであった。『ホット・ファズ』なんかでもあった、街そのものへの違和感の描写がより洗練されて再登場している感じですね。
何度も映画化された『盗まれた街』においても、地球人たちはその肉体を作り変えられ、「大いなる意思」的な物と一体となっていく。自我はぎりぎりまで薄められ、その「社会」に従属するだけの物となっていく。それに対抗出来るのは……そう、酔っ払いの力だ! いや、アルコールやダメ人間を礼賛するわけじゃなく、スーツ来てサラリーマンやって社会に馴染んで大人になることは、個性を捨てショッピングモール化、コンビニ化、スタバ化して均質化していく社会に近づくことに他ならず、どんな形においても社会に反抗し、組織に属さず、愚行権を振りかざすことによってしかその対極には立てないという、せめぎ合いが描かれている。もちろんそういう生き方を選ぶことには相応のリスクが伴う……。
今作のサイモン・ペグとニック・フロストはつかの間交わるが、再びその袂を分かつことになる。物語が始まったその時から二人の立ち位置はあまりに違い、その深い断絶が埋まることもまたなかったわけだ。
おなじみキャストと定番ギャグも絡めたエドガー・ライト印で面白いのだけれど、いつもの作品以上にほろ苦く物悲しい調べ背後に流れており、なんだか切なくなる。この世界はとっくにディストピアになっているのだが、戦って勝っても英雄にはなれず、自由と引き換えに荒廃した世界が残るのみだ。だが、それでも人間は人間なのだ、自由でありたいのだ……。
『ボディ・スナッチャー』の映画版では、地球は「彼ら」の物となることを示唆して終わるわけだが、今作の暴れまわることで呆れ返った宇宙人が帰ってしまうという結末は原作『盗まれた街』に近く、なかなか感じ入ってしまったよ。
しかし、映画のニュアンスとは少々ずれるのかもしれないが、そもそも今の世界に適応できないアル中にしてみたら、まさにこれこそが人生をやり直す最大のチャンスであり、世界を自分が生きやすいものに作り変えることが出来る機会であったのかもしれない。「希望は戦争」という奴ですね。
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