”明日がないさ”『フルートベール駅で』


 実際に映像の残る事件の映画化。


 2008年12月31日。この年、ショッピングモールの仕事を寝坊によって失ったオスカーは、人生の岐路に立たされていた。刑務所からは出所したものの、仕事が無くなれば再びマリファナの売人に戻るぐらいしか生活の手だてがない。だが、恋人や娘と共に今日である母親の誕生日を祝おうと準備しながら、彼は人生を前向きに生きて行こうと思い始めていた。夜になり、カウントダウンと共に、花火を見るために都会に仲間達と繰り出すオスカーだったが……。


 冒頭に実際の事件の映像が流れ、そこで何が起きたかが断片的に示唆される。映画はその一日前に遡り、かかる結末を迎えた一人の青年の為人を描き出す。
 主人公はバスケ選手みたいな名前のマイケル・B・ジョーダン。『クロニクル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131027/1382868073)の頼れる男ですね。でも、今回は超ダメな人だったよ! 起きた瞬間から、もう彼女から浮気を責められているし、その後は寝坊で仕事を首になったり、ムショ暮らしでお母さん(『ヘルプ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120407/1333791288)のオクタヴィア・スペンサー。売れっ子になっている! 今作では製作にも名を連ねているよ)に愛想を尽かされそうになったり、ここのところ全然ダメだったことが次々と明らかになる。仕事がなければ、前科になった売人業を再開するしかない……!
 まだ二十歳過ぎたばかりで、子供みたいなものなんだよな。未熟で、まだ自分のコントロールが出来てるかも怪しくて、まして責任感なんて持てていない。そんな姿に最初のうちはもどかしさばかりが募り、ダメじゃんこいつ、みたいなことを思ってしまいがちになるのだが、でも彼自身の葛藤が少しずつ透けて来ると共に、周囲で支える人たちのような心持ちにもなってくる。家族や友人は、今まで彼を見捨てずに来た。車にはねられた野良犬を葬り、売るつもりで持ち出した大麻をついに全て捨て去るシーンで、我々も思う。もう一度だけ、もう少しだけ信じて見てもいいのではないか……。


 だけど、何も約束されてはいないけれど、確かにあったはずの未来は、一瞬にして奪い去られる。
 その「実際の事件」に、物語的な必然性が何もないのだよね。刑務所での喧嘩相手や、撮影者とスーパーで出会った話が盛り込まれているが、それらは「なぜ彼は撃たれたのか」という根源的な問いの解答にまったくなっていない。


 『バイオハザードV』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120927/1348741324)とか『リアル・スティール』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111211/1323615379)などで、最近よく見かける大柄な俳優ケヴィン・デュランドが暴力的な警官を演じていて、最初はこの人が撃つのかと思ったのだが、逆にこういう荒事に慣れていそうな手際の良さの持ち主で、新年早々の点数稼ぎのためにやってるように見える。大声で「チンピラ」を恫喝し、手際良くひっ捕まえて締め上げ、反抗したところを逮捕して署に連行する……と、まるでルーチンワークのようだ。この人にとっては日常なのだな……。
 だから、相棒の警官が発砲した時は「えっ!?」と心底驚いている。なんで? そんな大げさなことじゃないぞ……? 手を握って必死に声をかけてるところの顔がめちゃ動揺していて、彼にとっても予想を超えたことだったのがわかる。
 引き摺り出されたのが黒人ばかりで、根底に差別意識があるのはもちろんだが、それだけでなく警察官に与えられた権限の問題点や、銃社会そのもの、そして後日譚としてテロップで出た司法の問題など、まあアメリカ社会のひずみが一発の銃弾の形を取って噴出したような事件。見終わってなお、なぜ撃たれなければならなかったのかは、まるで理解できない。それにしても、撃った警官の弁明は衝撃的であったなあ……。