”割り切ろうとするな”『ある複雑なお話』


 大阪アジアン映画祭2014、六本目!


 大陸出身の大学生が、莫大な報酬と引き換えに代理母として出産することを受け入れる。だが、無事に妊娠してある大富豪の子供を身ごもり、出産を待つばかりとなったはずが、突如、契約解除と堕胎を通告される。依頼主は富豪の妻だったが、直前に離婚を申し渡されたのだ……。女は胎内の子供が双子であることを知り、子供達を守るために身を隠すのだが……。


 ある女性の出産シーンから幕を開ける冒頭、父親であるという男(ジャッキー・チュン)も登場し、この出産に至るまでの紆余曲折がこれから描かれることを示唆する。三部に分かれた構成で、第一部は主人公であるチュウ・チーインが代理母となり人工授精で妊娠に至るまで。第二部は自らの与り知らぬところで子供が作られようとしていることを知った大富豪のジャッキー・チュン。第三部は両者と直接的に関わる弁護士のステファニー・チェが事の顛末全てを知るまでの話。三部構成ではあるが、大きく時系列が前後するわけではないし、視点も完全に固定されているかというとそうではない。そもそも、第一部が主人公の視点を取りつつも彼女の「真意」は伏せていて、そこがまあ言うなれば今作の仕掛けの肝になっている。


 まあここまでの粗筋だけでも実に「複雑」で、それは話がこんがらがるということではなく、いわゆるしみじみと溜め息をついて「あの人達の関係は、複雑なのよ」……と、説明は出来るんだけど言うにははばかるというニュアンスを込めたものなんであるな。だが、さらに登場人物の幾人かが伏せていた事実を暴露するにつれ、その複雑さが加速度的に増していくということになる。


 未公開作品でもあることだし、ネタバレになるので、あまり詳しくは書かないが、ジャッキー・チュン演ずる「金持ち」の「男性」、あるいは主人公の友達の男が、彼ら本人的には100%善意であるのだが、それを彼らなりの単純な解決方法に収めようとするあたりがポイント。主人公はその善意を理解しつつも、結局は受け入れることができない。
 あらゆる社会問題に言えることだが、それらは既成の、一方的な価値観では計り切ることができず、本来ならば解決は新たな枠組みを作る事によってしかなしえないのだ。今作はそこを実に誠実に踏まえているがゆえに、確かに複雑なお話だが、複雑さをそのまま受け入れ、別に収拾なんてつけずに終わってしまおうというあたりがなかなか斬新かつ真っ当なのであった。


 ところで弁護士役のステファニー・チェさんは、前日に観た『越境』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140322/1395477148)でも看護師役で出ていて、元カレであるチェン・クンをすげなく拒絶する役どころであった。非常に身長が高く、何か固い感じでややフェミニンな役が多そうだが、両キャラクターの行動などを比較してみても面白いかもしれないね。
 ちなみに今作では結婚を頑なに拒否するチュウ・チーインさんだが、翌日に見た『甘い殺意』では……?

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