”美味しいパパイヤの作り方”『KANO』


 大阪アジアン映画祭2014、オープニング!


 日本統治時代の台湾、現地民族、中華民族日本民族がひしめき合って暮らす地。地元の嘉義農林高校(嘉農=KANO)の野球部に、日本の松山商業で監督を務めていた鬼コーチがやってくる。公式戦で一勝も上げたことのないKANOチームを台湾代表として甲子園に導くべく、奮闘が始まった……!


 『セデック・バレ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130529/1369745972)の監督が製作に回り、かの映画の出演者が監督した映画。永瀬正敏他、出演者登壇の舞台挨拶の後、早速上映開始。まあしかし三時間越えということで、いささか戦々恐々たる気持ちもないではなかったな……。さらに、三時間に到達し、ついに甲子園行きを決めたところで、「第二部『虹の橋』へ続く……!」となるんじゃないかという心配もあったことだし(ないない)。


 寡黙で厳しいが、実は情に厚い、日本男子の理想のような監督を永瀬正敏が演じ、三民族混成チームを鍛え上げる。『セデック・バレ』において血で血を洗う争いを繰り広げた三者の、また違った歴史を描くということに意義を見出したのであろう。永瀬監督が三民族の長所をそれぞれ上げて、走力、打撃力、守備力を兼ね備えた最強チームに仕上がると力説するシーンが熱い。
 謎の特訓から、監督の奥さんの差し入れ、ライバルチームとの喧嘩、メンバーの離脱などなど、スポ根ものの定番をがっちりと抑えた丁寧な作りで、長尺も生かしてサブキャラもしっかりと描いている。数々の名言も飛び出し、いい加減なことを言ってるなあと思った、「いいパパイヤの作り方」が結構引っ張られたから笑ってしまった。
 デレるかデレるかと思わせて、ツンツンしたままの永瀬正敏が、いったいいつになったらデレるのか、というあたりも、途中で気になってしようがなかったね。なかなか頑固でしぶといキャラなのだわ……。


 ただまあ、「甲子園行き」が最終目標のようになっているので、途中でいったんクライマックスが来てしまうような感じになり、やはり事実上の前後編のようにもなっていた。数多の甲子園を目指すお話で、予選を勝ち抜いたら甲子園での大会を描かずに話が終わっちゃうのはどうなんだろう、と思っていたが、一回物語の緊張が途切れてしまうのだね。特に弱小校の初の勝ち上がりを描く話だから、そこまでで充分快挙なわけで……。
 その甲子園での大会では、なぜか相手チームの北海道のピッチャーが主役のようになり、日本人の対戦相手の目線から嘉義農業チームへのリスペクトを語る。ここは決勝の対戦相手の方が盛り上がったと思うが、実際に当時の事を語った記録のある人なのかな。
 決勝も、スコアを見ればいささか盛り上がりに欠けた試合だったようで、やや後半は構成に四苦八苦した感があるなあ。


 しかしこの日は、映画を上映した会場に、まるで甲子園球場の雰囲気が重なったような盛り上がりが起きてましたね。映画祭のオープニングとしては最高の一本だったのではなかろうか。


 ところで、舞台挨拶には監督、プロデューサー、永瀬正敏、坂井真紀、そしてKANOチームの面々が参加していたわけだが、もう一人ビッグネームとして名を連ねていた大沢たかおは来ず。なぜかな?と見る前までは思っていたが……まあ単純に出番が少なかった……。
 台湾での歴史的工事となった巨大用水路を作るためにやってきた男、という設定で、まあ基本野球には関係ないサブストーリーの人だったのだね。車に乗って画面を端から端へと通り過ぎて行くシーンが二回あり、それをKANOチームの面々が追いかけ、大沢たかおが最高の笑顔で「君たち、がんばれよ!」と返す……。一応、工事に携わるシーンはあって、またその用水路開通と甲子園行きが共に歴史的事件として重なる……ということで重要なポジションなのだが、如何せん現実感が薄く、まるで妖精のような存在感であった……。こりゃあ舞台挨拶にも来ないわけだよ。まあ舞台上を左から右へ横切っていったら面白かったかもしれんが……。

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