”恋に恋する大人子どもたちへ”『MUD』(ネタバレ)
未体験ゾーンの映画たち2014より。
ミシシッピ川に浮かぶ島の木の上に、ボートが引っかかっているのを発見したエリスとネックボーンの二人の少年たち。しかし、ボートには「MUD」と名乗る謎の男が住んでいた。街に検問が張られ、MUDが殺人の容疑で警察や賞金稼ぎに追われていることを知った二人。MUDが幼なじみの女ジュニパーと再会し、街を出ようとしていることを知ったエリスは、彼を助けようとするのだが……。
最近絶好調のマシュー・マコノヒー主演作です。しかしまあ映画の視点は、基本的には彼と出会う少年の目線で固定。両親の離婚を控え、自らも思春期のニキビ面(まあ主役らしい美少年子役だから、別にニキビなんてないんですけど……)。しかしマイケル・シャノンおじさんに育てられてエロピンナップに興味津々の相方少年とは対照的に、純愛野郎なのだ!
それがマコノヒー演ずるMUDさんの、「惚れた女のためにマフィアの息子を撃ち殺しちゃいました!」という純愛物語にすっかり共感し、ハマってしまうのである。ちょうど自らも高校生の女子と付き合うチャンスを得て、MUDの純愛物語を完結させることと自分の恋愛の成就が、息子には厳しいけど結婚は破綻を迎え「女ってやつはなあ……」と情けなく愚痴るお父さんに対するアンチテーゼとなるのである。
そんな「物語」の装置として「洪水で木の上に押し上げられたボートを蘇らせ、それに乗って旅立つ」という、『十五少年漂流記』のようなジュブナイル的冒険譚が据えられ、物語はそんな少年たちの夢の成就に向けて突き進む……はずだったのだが……。
残念ながら現実の男女関係は、そんな少年が酔っている物語のように、甘くはないのであった……。
ちょっと年下少年に興味を持って見た女子高生がいい加減なのはまあ当然として、MUDさんの夢の女役を演じたリース・ウィザースプーンが最高過ぎましたね。田舎じゃゴージャス美女の部類だが、第一印象から純愛物語と裏腹な「軽さ」がヒシヒシと漂う。キャスト知らずに登場シーンを見た時は「うそっ、よりによってこいつなの……?」と思っちゃったわ。MUDさんのことは好きだし、面倒なことを起こしては彼にいつも助けられていい気分……だったんだけど、今回はやりすぎちゃった彼と心中できるかというとそれは無理! 男に選択を迫られて、拒否をするのは仕方ないとしても、約束を守らずにバーで現実逃避するあたりがすげえ! いい歳こいて、バーで行きずりの男にもててるのが気持ちいい浅はかさが、はまり過ぎていて最高である。
主人公の向かいのボートハウスに住んで、MUDさんとも古い知り合いだったトム・シェパードが、
「あの女はダメだよ……」
とばっさり切っているあたりが正解なわけなんだが、人に言われたって納得できないのが男の性(さが)……。恋愛に夢を見ていたい、美しいものを信じていたい、こんなにも愛しているのだから間違っているはずがない! だけど、彼女らも自分たちと同じく、欠点だらけで弱いただの人間であり、本当は何も共有なんてできていないのだ。そんな思春期の悩みを抱える主人公に対し、「おっぱいは触れたか?」とか聞いて全然悩みのない相方少年は、ある意味正解なのかもしれない……。
もう愛なんて信じられない!と嘆く少年が蛇に噛まれてしまうあたりは、「イヴ」を惑わした蛇によって「アダム」も犠牲になるのだ、という、聖書的男女観の帰結であろうか。が、すでに噛まれた経験のあるMUDは、ここでついに我に帰るのである。
そう、長きに渡る愛、関係の過ちを認め清算することは辛いことではあるが、MUDさんはそんなところにいつまでもとどまっている男ではない。
「あいつは夢の女!」(実はダメ人間ですよ)
「向かいのジイさんは実はCIAのアサシンだ!」(本当は軍人でスナイパー)
「マフィアのボスは悪魔のような男だ! 近寄るなよ!」(実際恐ろしいのかもしれないが現場には出てこないし、部下もいまいちやる気なかったね……)
と、子供受けしそうな大きなことをついつい言っちゃう彼ですが、それを自分でも半ば信じている夢見がちな子供っぽいところが、生きるための大きな原動力になっている。自分を信じれば必ずヨットは動く。新たな再出発に漕ぎ出せる。この女がだめでもまた新たな女を抱ける。サマーがだめでもオータムが現れる!
そんな彼を助けるために、亡き妻を偲んで引退していたトム・シェパードさんも、元は軍の狙撃手だった過去そのままに、マフィアどもを狙撃しまくるのであった……。いやいや、主人公の家の向かいに住んでて、その屋根の上がお気に入りの場所とか、絶好の狙撃ポイント過ぎてて、絶対やると思ったわ……。
恋愛という女絡みの夢をバッサリ否定しつつ、冒険物語、相方少年との友情、父との関係、ジイさんとのホモソーシャル感、ピンチの時に助けてくれるヒーローは全肯定で、おいおい都合いいなと思わず半笑いになってしまうのだけど、「失恋」のショックを和らげるには、こうした「物語」、不可侵性と未来が必要なんですね。まさに少年にとっての通過儀礼であり、いい歳こいて恋に恋する大人子どものための寓話でありました。
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