”あるチラ見せマッチョの五日間”『ゲノムハザード』


 西島秀俊主演映画!


 イラストレーターの石神が家に帰ると、そこでは愛する妻が物言わぬ死体となっていた。突然鳴った電話を取ると、受話器の向こうからは死んだはずの妻の声が……。さらに、目を離した隙に死体もまた消失する。訪ねてきた警察を名乗る男たちに拉致されそうになり、石神は突然甦ってきた化学の知識によって逃れるのだが……。


 監督は『美しき野獣』の人だそうで、ああ……あれは面白くなかったなあ……と今更ながら述懐。さて、今作は日本との合作ですがどうかな?


 イラストレーターだったはずの人が、突然化学の知識を思い出し、それでピンチを切り抜けるシーンがすげえ唐突で超不自然に感じるように演出されているのだが、設定としてはまさにそういう症状が出ている、ということで正しいのだよな。連れの人がそれを見てポカーンとなっちゃうところも含めて。ただ、その知識の使い方が、電子レンジを爆弾に変えたり、目潰しくらわしたり、それは化学者としても本来の使用方法じゃないでしょ、というところは突っ込みどころ。化学者とは日頃、こんな使い方ばかり夢想しているのだろうか?
 しかし、主人公には化学者としての記憶があるのだが、サバイバル技術に使われる豆知識的テクニックはいいとして、実は人類史を変えかねないウイルスまでも生み出していたのだ、と言われても、そこに深い深い断絶を感じて戸惑ってしまった。


ただのイラストレーター→なぜか化学の知識持ってる! ルミノール反応とかに詳しい!→(越えられない壁)→人間の記憶を書き換えるウイルスを作っていた!


 飛躍しすぎだって!


 そんなウイルスを巡り、米韓の製薬企業の国際的陰謀が動いていた……というバカに壮大な話と、「妻が二人いる!」「死体が消えた!」という事象を、この時の物音がどうとか、絵を見たタイミングとか、妙に細かいところを見て解決するミステリっぽいところの噛み合わせが最悪で、どちらかというとこの火サスみたいな細かい要素の方が「主」に思えるのだな。大仰なタイトル通りの遺伝子操作のお話が、記憶やら妻やらを取り違えるミステリ的謎を作るためだけの「従」としての無理くり設定のようになっている。それは解決して行く順番を追って行けば明白なところ。小説でさらっと読むならともかく、映像で国際的陰謀に仕立て上げるのは少々きつかった。さすがの川井憲次のスコアも、盛り上げ過ぎで上滑り……。


 そんなこんなで、見所はイラストレーターとしても化学者としてもおかしい西島くんの肉体美……なんですが、まあ話がこれだから妙にバルクールしたり車に跳ねられたりしてアクションづいてはいるものの、見せ所はほぼなし!
 せっかくキム・ヒョジン、中村ゆり真木よう子と三大ヒロインなんだから、西島くんが三回ぐらい濡れ場やったら良かったのに、なぜか裸になってるのは途中で逃げ込んだ家でシャワー浴びてる女だけであった。まあ西島くんの筋肉は怪我の手当てなどで時折見られますが……。


 うーむ、まったくつまらなかったわけではないのだが、一つも面白いところがなかったとも言える、何とも言い難い映画でありました。まあ見なくても良かったですわ。