”餃子があなたを待ってます”『危険な関係』
古典の映画化。
夜毎享楽的にパーティーが繰り返される、1931年上海。実業家として知られるジユは、自分を捨てた富豪が女学生と婚約したことを許せず、富豪でありプレイボーイのイーファンに彼女を寝取ることを持ちかける。だが、イーファンは貞淑な未亡人フェンユーを標的としていた。フェンユーを抱けなければイーファンは土地をジユに渡す。抱ければ、ジユがイーファンのものになるという賭けが成立し、危険なゲームの幕が上がった……!
チャン・ツィイーと言うと、「やっぱり『初恋のきた道』だよね〜」などと、間の抜けた事をヘラヘラほざく、時代が十数年前で止まっている輩が未だに絶えないが、まったく情けない限りである。チャン・ツィイーは、今も餃子を作っているというのに!
……ということで、『初恋のきた道』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110405/1301989745)、昨年の『最愛』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130113/1357991876)に続き、第三の餃子映画がやってきました。チャン・ツィイーと言えばカンフーのラインとして、
カンフー 『グリーン・デスティニー』→『HERO』『LOVERS』→『女帝』→『グランド・マスター』
という路線があるわけだが、それと双璧を成すのがこの餃子ラインと言えるだろう。
えー、他にも餃子作ってる映画があれば教えて下さい。未見の分では『SAYURI』はないと思うが、『ジャスミンの花開く』あたりにもしかすると……?
さて、原作は手紙文で構成されたラクロの同名古典で、ヨーロッパやアメリカでももう何度も映画化されている名作。アメリカ版の主演はマルコヴィッチだ!
策略好きで支配欲が強い上流階級の美女にセシリア・チャン、それと情を通じるプレイボーイにチャン・ドンゴン、貞淑な人妻にチャン・ツィイー。監督は韓国人で、舞台は日本軍進行直前の上海。もちろんオリジナルからは設定の大幅な改変がなされているが、物語の基本構造は変わらず。いやはや、やっぱり古典って面白いよな。複雑に見えてシンプルな三角関係を描きつつ、しかし人の気持ちをも単純にゲーム的に取り扱うことの愚かしさまでも合わせて描く、現代にも当然通ずるまことに普遍的な物語である。そこを演技力に定評のある美男美女を集めて、真っ向から取り組んだ力作で、力のある原作をストレートに映画化して見せたことは、並々ならぬ注力の結果なのだろうね。
時に悪女役もこなすチャン・ツィイーだが、今回は久々のひたすらいい子役……なんだけど、猛アタックを繰り返すイケメンに、最初は嫌がりつつも段々その気になってきて、ついには陥落し、尽くす女へと変貌する。
こりゃあつきまといすぎじゃないの、ストーカーじゃないの、と言われた『初恋のきた道』の逆パターンなのだが、今作でもキーアイテムはずばり餃子だ!
いや〜、いったいみんなどれだけ『初恋のきた道』が好きなんだ!と、今作の作り手にも聞きたくなってしまうね。チャン・ドンゴンが、会う約束をしつつも自分も本気になってしまうことを恐れて出かけるのを躊躇している時に、遅いなと思ったチャン・ツィイーから電話がある。運転手に「留守だ」と居留守使われるが、
「じゃあ、待ってますと伝えてください。……餃子も待ってますって」
それを内線で聞いて、もういても立ってもいられず飛び出すチャン・ドンゴン! どれだけ餃子が好きなのか! 行った先でヒゲなんて剃られながら、「いつ私に恋したの?」と聞かれ、答えないわけだが、そりゃあその餃子を食った時だと思うよ……。
ベタベタだけど、餃子という中国における主食は、まさに家庭や穏やかな愛の象徴なのだね。
さらに今回のチャン・ツィイー、やや痩せて怜悧な雰囲気の素晴らしいセシリア・チャンと対照的に、家庭的にふくよかなイメージでまとめてきていて、もともとセクシーイメージではなかったはずが、妙に肉感的。そこがまた蒸し餃子のふっくらとした見た目や食感をも思い起こさせ、まさに餃子の化身です。
そんなチャン・ツィイーが「あなた好みの女になる」など、危険過ぎる台詞を乱発するわけで、こいつはやべえぜ!
物語は普遍的なテーマである、人の気持ちを踏みにじり、愛を弄ぶものは、いつしか己自身をも踏みつけにしているのだ、というところに帰着していくわけだが、それでも残っていくものは何か、を示したラストシーンは素晴らしかったですね。今年になって、やっといい映画が観られて、ちょっとほっとしました。
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