”僕は愛妻家”『THE ICEMAN 氷の処刑人』


 マイケル・シャノン主演作!


 美しい妻を娶り、子も授かったリチャード・ククリンスキー。彼には、家族も知らないある秘密があった……。違法ポルノのダビングに手を染めていた彼は、元締めであったギャングのボスにスカウトされ殺し屋に転業。今もその手を血で染め続けていたのだ。すでに数十人を殺害した彼だったが、ある日、目撃者の少女を逃がしたことでボスに廃業を命ぜられる。だが、家族を養わなければならない彼は……。


 マイケル・シャノンと言えば『テイク・シェルター』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120513/1336902229)では気の毒っぷりをさらしつつも嫁に愛されるという役回りでしたが、今作でも愛妻家役です。ただし血まみれの……。
 実に寒々としたロケーションの中、感情を見せようとしない男が、あのでかい図体でうろつく絵面が恐ろしい。笑ってても冗談を言ってても、本気なのかどうかわからない。その彼には、父親に虐待を受けた暗い過去があり、犯罪者に成り下がった弟とも決別し、自らは暖かい家庭を求めている。
 が、ウィノナ・ライダーの美人嫁と結婚した矢先に、ポルノビデオのダビングやってた仕事がご破算。肝が座ってそうなところをレイ・リオッタに大抜擢されて殺し屋に転職する。
 殺し屋稼業の最中にはそれなりにトラブルもあり、本人も続けていくことに葛藤も抱えている……のだけれども、気にしてるのは家族にばれちゃうことだけで、ポルノ作りや殺しに対して、なんら倫理的葛藤を抱えているわけではないのだな。まあそういう人と見抜かれたから抜擢されたわけだが、そのズレっぷりがキャラクターを象徴している。家族を守る、傷つけたくないと言いながら、その「仕事」を続けることこそがもっとも危険である、という発想はないし、殺しの収入による裕福さも手放したくない。
 ただ、こういうそれしか知らない、出来ない人というのはいて、そういう人でも妻子や家族を持ち、親になりたい、というのは『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130530/1369840345)でも描かれた内容であったな。『プレビヨ』では強盗は早々に破綻するし、息子の母親からはダメ人間扱いされているのだが、今作はなまじ収入がでかいので、嫁も見て見ぬ振りをし続けているあたりが面白い。


 主人公に葛藤というほどの葛藤がない上に、バレるかバレないか、捕まるか否かという話になってくるのも終盤なので、ちょっとドラマとしては盛り上がりようがなかったかな。
 もっと殺し屋の日常を面白おかしく描いてくれれば良かったのだが、日頃バレないようにしている小さな工夫だの、多彩な殺しのバリエーションなどもいまいち見せてくれなかったのが残念。殺しの場面は最初のホームレス殺しが一番良かったのだが、その後の殺しのシーンをじっくり見せないのももったいなかった。
 アイスクリーム屋の殺し屋さんも設定は面白かったんだが、妙に淡々としたテイストに埋れてしまった感じですね。


 まあ実話ということなんだが、もうちょっとスラップスティックコメディ的な演出も持ち込んだ方が面白くなったような気がするな。悪くはなかったがやや物足りない印象でありました。

テイク・シェルター(Blu-ray)

テイク・シェルター(Blu-ray)