”卵は一個まで"『そして父になる』


 是枝監督の新作!


 エリート会社員の良多と家族の元に、病院から入った連絡。それは、彼の一人息子が、他人の子供と取り違えられた、という事実であった。病院との裁判が進む中、良多と妻のみどりは、取り違えられた相手側の家族とも会うように。常日頃、息子に物足りなさを感じていた良多の気持ちは、交換へと傾いていくのだが……。


 保険会社のイベントで招待されたので見に行ってきました。今月、タダで見過ぎだろうという気がするが、まあ高い保険料払っててこういうの初なんだからいいだろ!


 大雑把に言うと、裸の王様が、自分が裸だということを認めるまで、という話。実は血のつながりがなかった、と後でわかる息子に対し、俺の子なのになんか頼りないなあ、ダメだなあ、と、自己イメージ肥大化し過ぎの父を福山雅治コレステロール値高いくせに全能感あり過ぎ。


 なかなかいい映画だが、バランスとしては少々美談にまとめすぎではないか。他の登場人物全てにダメ出しされ敗北を喫しながらも、全然わからんちんで反省しない福山君のせいで危うく多くの人間の人生が狂うところを、遅まきながら気づいたことで辛うじて踏みとどまった……という話ではあるが、あまりにもラストギリギリなので、話の95%までずーっとダメっぷりを見せつけられ、そこまでにすっかり呆れ果ててしまったよ。こいつがダメなせいで、セットでダメな母親の烙印を押されてしまう尾野真千子がひたすら可哀想でありました。


 しかし、こういう仕事しかできない未熟な人間がエリートとして社会的なリソースを多く握っていて、「僕に任せてください」とか言ってそれを振りかざすあたり、世の中なにかおかしいんじゃないか、という気がひしひしとしますね。実際に子育てしてきた人の意向が反映されず、お勉強とお仕事しかしていない頭でっかちの人が、なぜかえらいつもりになっている、というあたりが、実に不気味。福山君がエリート代表としてそこのところを嫌という程思い知らされる話なんだからまあいいんだけど、実際はこの国の政治や企業もこういう人間が動かしてるんだろうなあ、とか考えると、うそ寒い気分にさせれくれますね。


 國村隼樹木希林風吹ジュン夏八木勲が、まるでこの手の映画のタイプキャスト四天王のように出てくるあたりで笑ってしまった。ちょっとぐらい入れ替えてみても面白かったかもしれない。風吹ジュンが上司、尾野真千子の親が夏八木勲で、福山父が國村隼、継母が樹木希林だったらカオスな感じになったかも……。


 お話の中で「正解」のところを、全部真木よう子が言っちゃってるぐらいに、今回は真木よう子が無双状態なのだが、家族全員でお風呂に入るが売りのはずのフランキー一家なのに、真木よう子は全然風呂に入らないじゃないかよ! そして裸になってるのは男児ばかりで幼女たんは絶対に肌を見せないのな。


 あまり甲斐性ないけど子供には優しいお父さんがいい!ということなんだが、『ブルーバレンタイン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110504/1304412562)ではそれじゃダメ扱いされてたわけだから難しい。これが正解、というのは結局ないわけで、まあ大筋ではもっともなお話であることを認めるにやぶさかではないが、あまり教条的に捉えることもしたくないのであった。

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