"今日も奴がやってくる"『ファンタズム』

 カナザワ映画祭2013、一本目!


 一年前に父母を失ったジョディとマイクの兄弟。ジョディの親友トミーが謎の死を遂げ、その葬式が父母の時と同じ墓地で行われた日、マイクは奇妙な出来事を目撃する。謎の長身の男が、棺を一人で軽々と持ち去り、死体を盗み出してしまったのだ……。マイクはジョディにその出来事を訴えるが、耳を貸してもらえない。その日以来、長身の男と謎の「こびと」が出没し……。


 ドン・コスカレリ監督作ということで、かなり前だが町山智浩氏のポッドキャストでも監督インタビューと共に取り上げられていた映画。
 一度だけ試写会で実現した伝説の「ビジュラマ方式」での上映!と謳い上げていたが、中身は作中に登場するキャラ「こびと」を模した黒フードの人物が走り回り、銀色の殺人機械をイメージしたボールを投げる、という、冷静に振り返ればかなりお寒いものであった。さらに、「こびと」に扮していた映画秘宝の田野辺直人氏は暗闇を走り回って脚をくじき、この後の予定をキャンセルして帰ってしまったそうで、繰り返すのはそりゃあ無理があるな、と容易く実感させてくれたのであった。しかしながら、終わってみればなんだアホ臭い、となる代物でも、見る寸前までは何が起こるのだろう、とワクワクさせてくれるので、その期待感込みで楽しめる。


 まあそんな大げさな宣伝でも打たないとどうにもならんな、という感じのチープな映画ではあったが、『トールマン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130120/1358690368)の伝承に基づいた、死体を盗み出して行く怪物の造形や、どうやって撮影しているのか謎な銀のボールの動きなど、見所も多々あり。ホラーからSFへと転換して行く下りも魅力的。さらには、全ては少年の夢ではないかと思わせる夢魔的な要素もちらつき、意外に深みが増してくる。
 反面、「棺桶を一人で持ち上げた! すげえ!」の下りなど、その前に大勢で重そうに運んでいるところを見せているにも関わらず、ああ、もともと軽かったのねと思わせてしまう力のない演出などは笑ってしまったのであった。


 アイスクリーム屋の友達が、なかなかいい味を出してたなあ。そんなこんなで、今年のカナザワも幕を開けたのでした。