"でもやめるんだよ!という勇気"『ホワイトハウス・ダウン』


 ローランド・エメリッヒ監督作!


 下院議長の警護官を務めるジョン・ケイルは、別れた妻との間に政治マニアで大統領のファンの娘がいるが、関係はうまくいかずこじれるばかり。なんとか打開しようと、娘の憧れる大統領のシークレット・サービスになろうとするが、あえなく試験にも落とされてしまう。ホワイトハウスツアーに参加して娘の機嫌は治ったものの、落ちたことを言い出せないケイル。だがその時、ホワイトハウスを謎の武装集団が急襲した……!


 『エンド・オブ・ホワイトハウス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130618/1371462092)に続いて、今年二本目のホワイトハウス陥落映画。二本ともに共通するのが、結局ホワイトハウスを攻略するにあたって、力押しが重要なのか、それとも謀略こそが必要なのかが曖昧で、いかにも成り行き任せの作戦であっさり落とされてしまっているように見えてしまうところ。内通者、ほどほどの火力、ほどほどの人員、ハッカーが揃っていれば、なんとなく説得力あるだろう、ぐらいの適当さ。短時間で一気呵成に落とさないと次々に助けが駆けつけてくるから、ということを言い訳にして、勢いで押し切ってしまうわけだが、仮にこれ、「ホワイトハウスを襲う側」を主役にしたら、こんな脚本じゃ絶対通らないよなあ。
 そこがいい加減なので、後半は乗っ取った側もまたホワイトハウスの機能を生かす、あるいはまた逆手に取られる、という展開に持って行こうとするが、一向に緻密さが生まれてこないのだな。で、また何か中途半端な広さで、逃げる側がずっと隠れてるには狭すぎるし、襲う側が少人数で施設全部把握するには広すぎる。後から後から、実はあれがありました〜、あそこは通れました〜、というのが出てきてしまう。
 話もだいたいいっしょで、大統領の身柄と核の発射システムが両方揃ってるのがホワイトハウスだから襲うよ、というものになっちゃってて、もう構造的にこういう話にするしかないのだろう。次のホワイトハウス戦映画は、なんとか新機軸だして欲しいなあ。


 まあそこらへんはさておき、こちらの方が『エンド・オブ……』より製作費もかかっていて、世界中を破壊してきた男ローランド・エメリッヒが監督。昼間のシーン中心に遠景でホワイトハウスを捉えたショットの迫力や、いつも通り墜落させられるヘリなど、見た目のスケール感では一歩上。さらにチャニング・テイタムの娘が活躍、ジェイミー・フォックス大統領も活躍、脇の人たちも『エンド・オブ……』よりは活躍と、ボリュームは随分持たせている。さすがの大作感……ではあるが、プロットはいい加減なわりに、キャラ描写は真面目に伏線張ってて、脇のキャラまで意外と細かく活躍してくる。この辺り、大作の備えるファミリー志向の反映か、実にのどかでお上品なのだよな。


 2時間12分だが、まあランタイム通り、序盤、中盤、終盤、それぞれ一回ずつ「長いな……」と思ったのは心のどこかで、脇のキャラはもうええから大筋を進めようよ……と思ってしまったからかな。子供なんてさっさと脱出すればええやん、みたいな。


 『マジック・マイク』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130821/1377052729)でストリッパーをやめたチャニング・テイタムはめでたく下院議長のボディガードに収まっていたが、さる事情からボディガードの頂点であるシークレット・サービスに加わりたい!と考える。しかし面接担当になったマギー・ギレンホールがたまたま古い知り合いであったことから、まるでコネで試験受けてるかのようになって他の面接官からはバカにされ、逆に質問はどんどん厳しくなっていく。「大学は……中退」「カード履歴……散々ね」と容赦なくダメだしが下る中、「いや、夜学で資格を取った!」「オレは努力してる。チャンスをくれ!」と連呼するテイタム、あれっ……どっかでこんなシーンを見たような……って、『マジック・マイク』の融資を受けに行くシーンとノリとキャラがまったくいっしょなのね!
 そんな落ちこぼれだが、軍隊出身で戦闘力もあるしスキルがないわけではないので、非常事態では大統領を守って活躍する。まあやっぱり、まだまだピンで主役張ってもつかというと微妙な存在感で、ジャンゴ大統領に随分助けられているから、このシナリオで良かったのだろう。必然的にワンマンアーミーではなく、助け助けられしながら戦うことに。


 内部でバディもの状態なので、外にいるマギー・ギレンホールが、ポジション的には重要なはずなのに、落ちこぼれシークレットサービスと大統領の活躍を引き立てるために、いまいち役に立たなかったりむしろ邪魔だったりするので気の毒であった。面接で冷たくしたのが良くなかったのか……。個人的にお気に入りの俳優であるジェイク・ウェバーが裏切り者にあっさり殺されたのは、それよりもっと気の毒だったが……。
 子供にもいちいち見せ場があるのが、ファミリー映画たる所以かな。旗振りの伏線が最後に決まるあたりはなかなか良かったよ。政治オタクで大統領の大ファンというところも面白い。『ダークナイト・ライジング』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120730/1343577443)で、ラーズ・アル・グールの子供役で出てた子なのね。


 でも、オバマはジャンゴ大統領みたいな聖人じゃないし、平和主義でも何でもないからな! アメリカ内部のイデオロギー闘争ということで、「ここで戦争を止めたら、戦死した人間の命が無駄になる」というテーゼに対し、「でもやめるんだよ!」と返す勇気……まるで誉め殺しみたいな内容なんだが、実際のアメリカのやめなさっぷりを考えるとなかなか重い。しかしまあどちらにせよ「その気になれば中東ごとき一瞬で灰にできるけどな!」というだけの力のひけらかしにも見えるところ。核が発射されてはもちろんいかんけど、ホワイトハウスごときは時々ぶち壊して、権威も失墜させておかねばならんのではないか、映画にはそんな役割を期待するのであった。

エンド・オブ・ホワイトハウス [Blu-ray]

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