"チョーマと鉄人兵団 がんばれロシア軍"『オーガスト・ウォーズ』


 ロシアの内戦映画!


 両親の離婚をきっかけに、悪のロボットと戦う空想にのめりこむチョーマ。ロシア軍兵士である父ザウールは国境地帯へと去り、残った母のクセーニアは、新しい恋人に夢中。ザウールが国境にある故郷へとチョーマを呼びたい、と言ってきたのに、内戦の危機が迫ることなど気にも止めずに、あっさりと預けてしまう。しかし、恋人とバカンスに行こうとした矢先、グルジア軍の侵攻が始まり……。


 え〜、予告編ではいかにも内戦に巨大ロボが介入してくるような編集になってましたが、ロボットは戦地に取り残された男の子の空想の産物なので、実際には出てきません! ディセプティコンのような巨大ロボが出てきて、戦車から変形しますが、これは少年が対峙している現実の脅威を象徴した存在なんですね。対比として、少年を守るロボットも登場しますが、これは保護者の象徴で、母親はロボットになれず、別れた父親はなれる、という対比がわかりやすい。


 しかし、夏休みに父親の田舎に遊びに行った少年は内戦に巻き込まれ、父も祖父母も戦車によって木っ端微塵に! 新しい彼氏とバカンスに行く気満々だった母親が、それを諦めて駆けつけることに。このお母さんが主人公になるわけですが、恋愛に浮かれてすっかり軽薄になっていて、ひどいことに子供には嫌われてる彼氏にも実はバカにされている。



 同じロボットもの?ということで、ドラえもんの名言があるが、



 ほんとにこんなこと言うから驚いたよ。しかしまあ、この男もたいがいバカ野郎なのがわかったので、主人公は彼を捨てて、ソチで浮き浮きバカンスするはずだったミニスカのまま内戦地へ向かう! 美人過ぎるのと格好が無防備過ぎるせいで、野卑なルックスのロシア野郎にジロジロ見られ、兵隊さんからもセクハラの連発! とうとう爆発がドッカンドッカン起き始め、床が吹っ飛んだせいで、カメラは自然と?ローアングルに……! まあでも、パンチラはなかったと思う。あったかもしれんが、一瞬だろう。段々状況が過酷になっていくので、ジーパンはいたらちょっとほっとしたよ。


 辛うじてメールで息子ちゃんと連絡が取れるので、やっとこさ彼の想いを汲み取り、自らが正義のロボになる決意をするおかん。この辺りの、否応無しに成長せざるを得ないあたり、実に戦争ものらしい。
 ナイトシーンの砲撃から、昼間の市街戦まで壮絶は壮絶なのだが、映像の美しさが素晴らしい。山中の鄙びた村の風景を戦火が切り裂いていくが、クリアな映像ではっと目を惹くようなカットがいくつもあり、さらにロシア軍全面協力の実機の迫力もすごい。耳元、足下を銃弾が飛び交い、一瞬が生死を分ける中を走り続けるおかんを、兵士たちもまた無謀と思いつつも助けることに……。


 一応、侵攻してきたグルジア兵の内面にも触れるシーンがあり、単純な正悪は語れないよ、ということも示してはいるが、所々で挿入される、戦況を見ながら大統領他が応戦、報復を決断するシーンが異様に好戦的。ハト派は一人だけで、最後には「おまえのような考え方に従ってきたことがこの事態を招いた」と沈黙させられてしまう。このシーンの冒頭でちらりと語られる、「アメリカが背後で……」という台詞が、多分、この感覚の全てを説明しているのだな。あのそびえ立つ悪の巨大ロボは、冷戦時代から巣食い続けたアメリカのメタファーでもあるのだろう。戦車から変形したりするあたりも、その戦車そのものに「米帝の金」が入ってるからと読むと面白い。


 しかし、そういう政治的、歴史的な目線はともかくとして、現地にいる人間がこんな目にあったら、皮膚感覚として、戦場や内戦に対してネガティブな思いを抱いて当然だろうに、それは綺麗さっぱりないことにしてる厚顔さもすごい。兵隊さんかっこいい! 悪のロボットをやっつけたってな! そのために主人公をバカで無邪気に設定しているのか!? もちろん、全面協力をしてもらうためには必要だったのだろうが、露骨な持ち上げっぷりだ。せめて恋愛要素はなしにして欲しかったぜ……。


 日本版予告でロボバトルを期待して行った奴は激怒、ミリオタは歓喜。面白いのだけれど、宣伝詐欺を抜きにしても、どこかどっちらけた気分が残る映画でした。

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