"僕の生きる道"『マジック・マイク』
チャニング・テイタム主演作!
人気ナンバーワンのストリップ・ダンサー”マジック・マイク”であるマイクは、屋根の瓦葺き、家具作りなどの事業を手掛ける自称青年実業家。だが、ストリップで稼いだ金を頭金にしても、融資すら受けられない。そんなある日、19歳のアダムという青年を助けたマイクはアダムをストリップに誘い、一躍人気ダンサーに仕立て上げる。だが、堅実なアダムの姉は、そんな世界に対して懐疑的で……。
いつになっても名前が覚えてもらえず不憫だったチャニング・テイタム(http://d.hatena.ne.jp/yosinote/20130817/1376744498)に、ついに代表作が! 今作は自伝的な内容である、ということで、当然彼のサクセスストーリーが語られるのだろうと思いきや、あにはからんや、挫折ストーリーでありました。えっ、ストリッパーからCM出演してハリウッドスターに転身したんじゃないの、と思ったのですが、その頃の彼は二十歳で、今作のキャラクターは実年齢通り三十歳ぐらい。そりゃあそのまま演じるのは無理があるか。今作の彼は、小さな事業をいくつも抱え、いつか転身をと夢見つつ、もう何年もストリッパーを続けているという男。
その前に、まだ19歳の、オーナーも才能があると認めるアダムという男が現れ、ヤクに手を染めストリップで稼げる大金に目がくらみ、ショービジネスの世界に取り憑かれる……。で、wikiを読めばわかるのですが、このアレックス・ペティファー(『アイ・アム・ナンバー4』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110721/1311243263))演ずるアダム・ザ・キッドこそが、実は若き日のチャニング・テイタムの経歴そのままなんですね。よくある教訓物語を代入するなら、チャニング・テイタムの演ずるマジック・マイクはアダムの成れの果てで、アダムもまた同じ道をその後辿るであろう、ということを示唆して円環構造になる、というパターンなんでしょうが、そこはひょいとかわして来る。チャニングのキャラクターは、あるいはあり得たかも知れないもう一人の自分のことなのか、それとも実際に存在した先輩がモデルなのか。
そんなこんなで、「自伝」と銘打ちながら非常に客観視された物語になっている。そこにまた、ストリッパーを演ずるチャニング・テイタム他の素材を、自分の技法でスタイリッシュに撮ってみせたソダーバーグのテクニックがうまくはまった感じですね。しかしまあ、冒頭から事後、朝チュン、起きぬけで、ベッドには女、というシチュエーションなのに、画面が黄色い! 夕方かよ、と突っ込んでしまったよ。その後もその黄色い画面でヤクをやり始めるもんだから、あれ……『トラフィック』……?と激しくデジャヴが!
ショーのシーンは普通に、というか、かなりクールに、隅々までクリアに撮っていて、格好良く描きながらもどこか醒めた印象も残す。ステージを見上げる客のように狂熱しきるのではなく、楽屋のシーンなどの裏側も挟んで、ここで何が起きているのか、ここにいることがもたらすものは何か、を冷静に切り取って行く。
しかし、そんな中で、この映画のためか完全にダンス仕様に絞り切ったボディを披露したチャニング・テイタムのダンスの躍動感は素晴らしいし、「俺は踊らない」と言いながらラストナイトは「復帰」してしまうマコノヒー店長の魅せっぷりは、教訓物語の文脈から独立したような輝きを放つのでありました。
「マジック・マイク」の行く末は映画の通りであるが、その分身かと思われた男は若くしてストリップに残り後にハリウッドスターになっちゃうのだから、成功したかしてないか、ではなくて、山師的なメンタルや、目先の金や人気に踊らされてのスター気取り、自分を演じているかのような二重生活、そして薬物と切っても切れないショービジネスの世界こそがいかんということなのであろうか。ハリウッドにもつながるストリップショーは、規模こそ小さいとはいえ同種のものであり、隠喩でもあるのだろう。未だハリウッドに留まるチャニング・テイタムだが、今作で彼は、そこに居ながらそういったものからの脱却を志していること、あるいは貯金はたいてスターじゃなくなっちゃってもいいんだよ、オレは!という決意表明をしているのかもしれないですね。
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