"鬼子から達人へ"『TAICHI/太極 ゼロ』『TAICHI/太極 ヒーロー』


TAICHI/太極 ゼロ スペシャル・エディション [Blu-ray]

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 夏の中華映画傑作祭!


 清朝末期、天理教の兵士である楊は凄腕の拳士だったが、額にある肉の芽を押されると凶暴化するという特異体質の持ち主だった。腕は立つが頭の弱い彼を見かねた軍医は、彼にこのままでは肉の芽の毒が身体に回って死に至ると告げる。克服するためには陳家拳を身につける必要があると……。夜襲を受け、軍が壊滅したのをきっかけに、楊は陳家溝へ向かうが、村中が達人のそこで誰にも敵わず、宗師・陳に会う事すら出来ず、彼の娘・玉娘にも完敗し……。


 ……ということで、二本まとめて。本国では大ヒットしたものの、こちらで名が売れたキャストがいないために抱き合わせ公開、なのかな。この二本でちょうど前後編のような格好になっているので、続けて観る事をおすすめします。
 『メモリー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130401/1364722179)で主演だったアンジェラベイビー、大御所ではレオン・カーフェイにユン・ピョウなどが登場しているが、主演は全然知らない役者だ……作中のテロップで「北京武術大会優勝!」と出るのが、最初はキャラクターの説明かと思ってたら、本人のことだったのね。ユエン・シャオチャオという人。有り余るカンフーの素質と引き換えに頭が悪くなっている、というよくわからない設定で、このままでは頭に毒が回って死んでしまう! そのためには身体の気の流れを良くしなければならない。それに必要なのが陳家拳であり、後に太極拳と称される拳法である、というお話。


 そんな中国故事と武術リスペクトに溢れた、なんともクラシックなストーリー……なのだが、映像はオーパーツ的メカニックが続々と登場し、CGも全開。格闘ゲームをパロディにしたライフゲージやファイトコールなども飛び交う。
 監督はスティーブン・フォン。もう二十代から役者兼監督をやってる若手だが、今作は結構大作を手がけることに。しかし、ストーリーも装いもクラシックで、それなりの重厚さと現代映画らしいテンポの良さを両立せねばならないであろう題材なのに、全編に渡ってスムーズかつ軽妙な語り口を維持していて驚き。ゲームっぽい演出を抜きにしても、スピード感のある映画になっておったわ。その中で、大御所の使いこなしっぷりも見事。レオン・カーフェイとユン・ピョウがいて、武術指導にサモハンが鎮座してるのに、よくこうのびのびとやれるな……。ちょっと今後も注目したい監督になった。中国のベン・アフレック的な存在になるかもね。


 レオン・カーフェイもユン・ピョウも、一時期は痩せたまま中年になってしまって、単に貧相なビジュアルになってしまっていたが、今作はちょいと太って、役に似つかわしい貫禄を出している。それに可愛がられるユエン・シャオチャオさん……一作目のバカが技を覚えるに連れてだんだん賢くなる、という演技と存在感はなかなか良かったし、動きもハイレベル。が、まあまだ素材かな……もう一つ自分のカラーが欲しいところである。
 逆にそれをいじめまくるアンジェラベイビー! 彼女も今回はファイトシーンが多数あり、バレエで鍛えた動きをうまく使ってますな。レオン・カーフェイの殺陣も含め、実際は本職ではない人を強く見せるテクニックは今作でも冴えております。アンジェラベイビー、表情のパターンが少なく、いささか宮崎あおい的ないらつきを感じないでもないのだが、でもかわいいよ。


 ピーター・ストーメアの出来損ないみたいな顔した悪役がいるな〜と思ったら本人だったので驚いた。彼が活躍するパート3もあるようだが、それは後日談的な位置づけになるか。一応、今回の二作で太極拳誕生秘話は語られ尽くすので、安心して観られます。その代わり『ゼロ』はほんとに中途半端なとこで終わるからな!