"おらが村の酒造り"『欲望のバージニア』


 禁酒法時代の実話を映画化。


 密造酒の製造が盛んなバージニア州、フランクリン。禁酒法時代もポンデュラント三兄弟は独自の製法で作った酒を売り捌き、一部で名を挙げていた。だが、手堅い商売をする次兄フォレストに苛立ちを覚える末弟のジャックは、舎弟と共に新たに作った酒を街のギャングに売ろうとする。殺されかけ、兄の名前を出して辛うじて助かったジャックだったが、まるで懲りない。そして、新任の取締官レイクスが彼らに目をつけ……。


 地方都市をぶらぶら旅行していると、「郷土の偉人」に時々出くわす。時代は様々だが、要は全国区ではあまり知られていない、あるいは大きな物語においての脇役としてしか認知されていない、そういう人物が、いかにもその地方の「顔」として前面に押し出されている様である。像なんかあったりして、さも大人物のように宣伝されているが、何せ大河ドラマじゃ脇役止まりだったりするものだから、絶妙なまでに経歴が地味であったり、大した事をしてなかったりするのである。


 ヴァージニア州で密造酒の販売をしていたボンデュラント兄弟が主人公……というこの物語も、まさにそんな感じであったね。冒頭で、アル・カポネなどの名だたるギャングたちの名前が並べられ、ほほう、知らなかったけどこの兄弟はそれに比肩する存在なのだね、と危うく錯覚しそうになるのだが、彼らは別に出てきませんから。


 タフで冷酷な次男をトム・ハーディ、野心家の三男をシャイア・ラブーフが演じていて、長男は人数合わせで何のためにいるのかよくわからないキャラだが『ゼロ・ダーク・サーティ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130221/1361458559)のパイセン役の人。街のギャングのボスにゲイリー・オールドマン、兄弟の経営する酒場で働き始める女にジェシカ・チャスティン、街の教会の娘にミア・ワシコウスカ禁酒法を楯に街を牛耳ろうとする取締官にガイ・ピアース。こりゃすげえ、超豪華キャストやがね、面白そう、と予告の時点では思っていただけに、かなりガッカリ感は大きかった。


 淡々とベースになっている実話を追っているせいか、各エピソードにつながりがなく、一向にキャラクターの個性が強調されない。兄貴他、えらい人に言われたことに全部逆らうシャイア・ラブーフは、その成長しなさはさておき、まだ描けているほうなのだが、トム・ハーディがひどい。前日談の、戦争に行って自分たち兄弟は死なない、と確信したというエピソードが省略されているのだが、「そんなわけねえだろ」ということを根拠なく信じられるぐらいの胆力があり、周囲もその作られた伝説をうっかり信じてしまうような凄味がある、ということを見せないといかんはずが、何もないのだよな。弟ラブーフがだめ過ぎて対比としては強そうだけど、やることは保守的で動きがないし、突っ立ってるだけにも見える。何か……こう言うと身も蓋もないが、オチが割れた後のベインっぽいな……。絶妙に頭悪そうなんですが……。その後もチンピラに首をかっ切られたり、女を口説けなかったりといい感じにか弱いエピソードが続くのだが、「不死身伝説」を自分で本当に信じてた、というあたりが極めつけであったなあ……。偉人とバカは紙一重なんだけど、それを分けるのは結局どんなことを成し遂げたか、なわけで「郷土の偉人」に贔屓目で下駄をはかせても、すごい物語にはならないんである。
 クライマックスの銃撃戦で的になるために出て行ってあっさり撃たれたあたりも素晴らし過ぎたね。『るろうに剣心』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120831/1346340484)に続いて、ドリフの「斬られても何回も立ち上がるギャグ」を思い出しましたよ。ただまあ、ギャング映画で時々感じるのが、結局、組織力もなく実際に本人が強いわけでもないギャングたちが街を牛耳ったりできてしまうのは、その「幻想」によるところが大きいわけで、ハッタリで「伝説」を作ってしまえば、周囲が勝手にびびってくれる。伝記というノンフィクションでその裏側を見せちゃったら、全然大した人物でもなんでもなかった……というのは、ある意味、必然だったのであろう。


 そんなこんなでキャラにも話にも魅力がないから、役者しか見るところがなくなる。ジェシカ・チャスティンのおっぱいは良かったね。ガイ・ピアースもアメコミのヴィランみたいなコスプレしてて面白かったよ、ふはっ。
 原作は、あるいは語り口の面白さで読ませたりしているのかねえ。筋だけ見たら、なぜ映画化したのかわからないぐらいのレベルなんだが、何かお金出して映画にしちゃうような魅力があったのだろうか。

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