"世界はこんなにも醒めている"『リアル 完全なる首長竜の日』
自殺を図り、昏睡状態になった恋人の淳美。新技術センシングによって、彼女の意識の中に入れることとなった浩市だが、夢の中にいる淳美と意思の疎通が取れない。さらに、後遺症が彼自身の現実をも浸食し始める。それでもセンシングを繰り返す浩市の前に、記憶の奥底に潜んでいた過去が立ちはだかる……。
劇場で見るのは『回路』以来で、ソフトも含めると『LOFT』以来の鑑賞ということになるかな。まさかシネコン、それも梅田の最大スクリーンで観られるとは思わなかったよ。
他人の脳内の仮想現実の中に入る、ということで、もっとトリッキーな話にも出来ると思うが、ネタこそ仕込んであるものの、作りは割合シンプル。原作ありきで、漫画の独白のような台詞回しが、またいい感じに現実感のなさを煽る。今作で完全に黒沢清映画の定番キャストの地位を確立したか、中谷美紀の変な猫なで声と怪演も気味が悪い。
自分を拒絶しているかもしれない恋人の脳内に入る、という不安感に囚われた主人公を演ずるのは佐藤健。黒沢清らしい嫌な不安感を生み出す、知らず知らず違和感を煽る映像の中、次第に境目が曖昧になる現実と脳内を彷徨うことに。
突然、死体が出現する恐怖シーンもあるが、『LOFT』のミイラと同じく妙なおかしみがあり、その後の謎の人影なども、
「それはフィロソフィカルゾンビね」
とか、もう語感からしてバカなことを真面目くさって言われると余計に笑えてくる。登場人物は真剣そのものだが、それに対して世界はこんなにも醒めている、と言わんばかりの突き放しっぷり。この前半の独り相撲感覚の孤独さが素晴らしいですね。
後半はどんでん返しが起こり、また感覚が変わって物語は謎解きにシフトしていく、のだけど、これもまた脳内の話に過ぎず、主人公たちの自分のことでいっぱいいっぱいのパーソナリティが閉じられた世界の中でぐるぐると回り続ける。最後の「少年」との対峙や解決もまた、彼らの脳内で起きたことでしかなく、実際の「彼」ではない。回想シーンで登場した過去の「彼」もまた、記憶の産物でしかない。さらにそれが「首長竜」に発展していく過剰さ……。監督の旧作よりもジョニー・トーの『MAD探偵』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110308/1299510758)を思い出したところで、「過去」と「漫画」に取り憑かれた人間が、センシングという行為やパートナーさえも取り込んで、巨大な夢想を構築していった全体像を見ると面白い。強固な論理性はなく、物語上の破綻も多いが、それもまたパーソナリティの写し絵なのだろう。
佐藤健はまあ良かったが、綾瀬はるかがなあ……。しっかり乳を揺らして走るシーンはありましたが。何か心に残るものがあるか、なんて言われると何にもないが、見ている間の違和感が後からじわじわと来る映画であった。ラストはそのまま廃墟を彷徨うとか、二十年後に役所広司になって目覚めてたら、もっと黒沢清っぽくて面白かったと思うんだがなあ。まあそこはシネコンでかける邦画大作だから……。
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