”君もまた囚われてるよ”『監禁探偵』


監禁探偵

監禁探偵

 我孫子武丸原作の漫画を映画化。


 向かいのマンションに住む女をのぞいていた亮太。だが、ある夜、女が何者かに襲われるのを目撃する。駆けつけた時、彼女はすでに死体となっていた……。そこに訪れたアカネという女に、死体といっしょにいるところを目撃されてしまった亮太は、彼女を殴り倒し監禁する。死体発見までに事件を解決しようとする亮太だが、空回りするばかり。そこで拘束されたアカネが意外な提案を……。


 一時期、年間200冊ぐらい新本格を読み漁ってた時期があるのだよな。我孫子武丸は『探偵映画』『殺戮に至る病』『腐蝕の街』『三人のゴーストハンター』ぐらいしか読んでいなくて、あまりいい読者ではなかったが……。ミステリ作家の中ではいち早くウェブサイトを作ったり、『かまいたちの夜』なども手がけたり、手広くやっている印象の作家であった。


 まあそんな懐かしさも手伝って見に行った。漫画は未読。表紙だけ観たけど全然ビジュアルが違うな……。ロリキャラ? で、男は童貞臭いルックスなのだろうか。
 殺人現場に飛び込んでしまった被害者のストーカーが、たまたま訪れたその友達に目撃されたことで、彼女を拉致監禁せざるを得なくなる、というのが、彼らお互いが持つ認識をすり合わせたもの……ってややこしいな! 要は、目に見えているもの、先入観でたどり着いたもの、彼ら自身が口にしたことは真実とは限らないということですよ。
監禁した者とされた者が、互いの利害の一致を見て、その状況のままで殺人の犯人を探す、という安楽椅子探偵もの。舞台は監禁場所のマンション周辺から動かず、低予算を逆手に取って密室劇にまとめてくる手法を取っている。


 ただまあ、ミステリ小説の説明台詞は、漫画では吹き出しでしゃべっててもよほどやりすぎない限りは気にならないが、映像にしてしまうと少々くどいのだな。そしてまあ、主演の二人が台詞が上手いとは言えないので、会話劇としては少々たどたどしいし、間が持つぎりぎりのテンポ。それでも大きな場面転換なしでなんとかつないでみせたのだから、きっと演出はまあまあ良かったのだろう。
 ソフトながらサービスショットを連発した夏菜も、おそらく期待されていたものは見せたのではないかな。百恵の息子は知らんが……。


 しかし、やはり絵なり映像なりですべてを見せるとなると、あまりカチッとトリックを構築しても、オチが見え見えになってしまうのだろうな。本筋は、一つだけ超偶然か完全な狂人を混ぜてわざと話をややこしくさせる、ネタの尽きた新本格の量産パターンに陥っていた。主人公たちの正体が明かされる展開をその後に回してるから、何となくスッキリとオチがついた感覚にまとめているが、順番入れ替えて、正体が明らかになった後で狂人が殴り込んできたら、「なんじゃ! それがオチかよ! 」となってるよね。


 一定のクオリティには到達しつつも、良くも悪くも新本格らしいストーリーと演出、低予算映画らしい世界観とキャストで、期待を超えるものは見せてくれなかった代物でありました。テレビで見られたら良かったのに。

探偵映画 (文春文庫)

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殺戮にいたる病 (講談社文庫)

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