"時を越えて、その先へ"『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(ネタバレ)


 二大セクシー俳優激突?


 サーカスでバイクショーを見せていた天才ライダーのルークだが、巡業先限りの恋人ロミーナが自分の子を生んでいた事を知り、足を洗ってその街に留まる事を決意する。まともな仕事につけない彼は、そのテクニックに目を付けた修理工の男と組み、銀行強盗をすることに。計画は成功し、首尾よく大金を手に入れる二人だったが……。


 ライアン・ゴズリングブラッドリー・クーパーが、『ブルー・バレンタイン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110504/1304412562)の監督の新作で、犯罪者と刑事に分かれて対決!(そして共に家庭崩壊)……というのが予告で受けたイメージ。しかし、蓋を開けてみると、あれ、あれれれれ、映画は意外な方向に……。


 サーカスでバイクスタントをやってるゴズリング、街から街へ流れているが、前回きた時に知らずに女を孕ませていて、もう生まれていたことが判明! ここでのエヴァ・メンデスの行動が実に曖昧で、会いには来たんだけど子供のことは教える気がなかったんだよね。しかし再訪したゴズリング、そのさらに母親から「あんたの子よ」と聞いてしまう。
 一念発起し、サーカスをやめて街に残ることを決心するゴズリング。子供のために働く!という彼に、全然期待してなかった女は「無理に決まってる」と言うのだが、その日暮らしのバイク野郎のくせに子供をほっぽりだすことはせず、「常識的に考えて……」「法律的にも……」とか言い出す。えっ、そんな真面目な考え方の持ち主だったの?と驚くとこなのだが、実際に子育てに関わって実践する能力は、稼ぐのも生活力も含めてほぼ皆無という悲しき男なのであった……。
 勤め始めた修理工場でベン・メンデルソーン(『アニマル・キングダム』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120313/1331644645)でも犯罪者!)に唆され、唯一の才能であるそのバイクスタント力を活かして銀行強盗に手を染めることに……。


 見た目はカッコよく、さほどチャラくなくて真面目なところもある性格。しかし残念ながらあまり頭の良くないキャラクターなのだな……。教育は受けてないしコミュニケーション下手過ぎて、エヴァメンの今の夫とも全然話が通じず殴ってしまう。強盗のためにバイクを黒く塗ったのはいいが、普段もそれを乗り回してしまう無警戒さ……。
 誘ってきたグリーンウッドさんは、数回やって目をつけられる前に止める、を信条にしているのだが、暴力で逮捕されて接近禁止にされてしまったゴズリングは、息子のために金を稼ぐことでしか愛情を表現できないので強盗をやめられない。
 いやここまでまだ序盤で、一見主役だからまさかここでどうこうなるとか思っていなかったのだが、こうして振り返っているとすでに破滅の匂いが強烈に漂っているね。赤ん坊の息子にアイスを食べさせて「何か初めてのことをしてやりたかった。きっとアイスを食べたら俺を思い出すようになるだろう」……って、これは完全にフラグですよ!


 何度目かの強盗は、下調べ不足、新車など悪条件が重なって大失敗、ここでのキレっぷりが賢くなさを見事に表現していて、ついにその予定された最期に向けて爆走していく……。
 ライアン・ゴズリングの重みのない格好良さって、『ドライヴ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120404/1333450802)的な完璧超人だとごっこ遊びみたいに見えて胡散臭いけれど、こうして美人薄命的に散る役だと、そのペラさが遥かにマッチするような気がしてきたね。


「一瞬のことだった……」


 そう述懐するのはブラッドリー・クーパー。ゴズリングが退場し、まさかの主役交代! ほんとにバトンタッチしたかのような交代ぶりで、二人が顔を合わせるのは一瞬だけ! 映画はここから第二部に突入! なんだこの想像の斜め上の展開! しかしこの「バトンタッチ」こそが、密かなテーマであることも徐々に見えてくる。
 ゴズリングもそうだったが、この第二部でじわじわと見えてくるクーパーのキャラクターの、人並み以上に正義感を持ちながらも権力志向で実務能力に長けていて、詐術も駆使するあたりの硬軟清濁バランスを取るあたりがいい。しかし、その裏にどこか脆弱さも透けて見える……まさにはまり役ですよ。
 一瞬の邂逅の果てに子供から父親を奪った男が、自らの子と向き合えなくなる過程を経て、そこから目を逸らすように正義と権力を求める……。


「15年後」


 えっ、そんなに!? とまた驚くわけだが、ここから第三部。17歳になった二人の少年が、宿命に導かれるままに高校で出会う……。
 息子と向き合えない父と、父に愛されたいと願う息子。実の父を知らない息子と、もうこの世にいない父。お互いを知っているようで何も知らない奇妙な関係が絡み合い、結末に向けて加速していく。それぞれが伝えたいものを持っているのだが、それらが意図的に伝わることは決してない。死者は特に無理だ。
 「俺の父親って何者のだったの?」とゴズリングの息子、デイン・デハーン君が育ての父に聞くシーン。パパのスターウォーズギャグを聞きつつもアイスをモグモグ食べているところが象徴的で、果たしてこれはゴズリング父の願い通りに彼の事を無意識に思い出しているのか、むしろまったく思い出してない皮肉なシーンなのか、わかりづらい。伝えたくとも伝わらないコミュニケーションのもどかしい齟齬と、だがそうであっても伝えたいと願う親子の骨絡みの感情。受け入れ、飲み込むまでは決して始まらないのに……。
 息子ちゃん、過去を求めてメンデルソーン修理店にやってきて、15年経っても全然代わり映えしない彼から、かつての父の話を聞く。いや〜、この人も銃突きつけられたりして色々あったのに、15年も経っちゃったら何かいい思い出になっちゃってるのね! めっちゃ親切。あいつはいい男だったよ〜、なんて懐かしそうに語る。しかし自分も強盗仲間だったことなんておくびにも出さないずるさ。
 クーパーさんの息子も、反抗期の癖に甘えが強いというどうしようもないバカ息子で、ゴズリン息子もそこそこバカだから、いい感じにダメな方向へ向かっていく。……というか、賢い人、強い人、間違わない人は、この映画には一人も出て来ない。みんなちょっといいところと悪いところがあり、良いことをしつつも失敗も重ねる。多くのことが裏目に出て、良かれと思ってしたことも拒絶の憂き目に遭う。だが、そう……月並みな言い方だが、それが人生というものではないかね? 言葉にならない想いの多くが、束の間の夢として消えていく。残るものはごくわずかだ。


 二人の父親、二人の息子、それぞれが主人公のようでいてそうではない不思議な構成で、本当の主役はこうして四人を結びつけた「宿命」そのものであったのだろう。バトンをつなげる役回りだったクーパー親子の部分が少々弱いのが物足りないところだが、バカで不器用だったゴズリング父は、彼らを通してやっと息子に伝えることができた。ほんの束の間だったが親子が揃った幸せなひとときがあり、それを守ろうとして一瞬の煌めきのようにわずかな人生を駆け抜けた男は、新たな人生を歩むために捨てたバイクを息子に託す……。
 ラストシーンは観ていて『少年と自転車』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120516/1337168204)を思い出したが、かの作品のようにサヴァイヴしたことももちろんだし、少年としての自転車から父のバイクへと乗り換え、やっと宿命の先、彼自身の人生が始まることを示唆している。松林を抜けていった先でそれが如何なるものになるかは、また別の話だ……。


 狂気の傑作『ブルー・バレンタイン』程には語れないけれど、また違う、けど同じくダメダメな「お父ちゃん」像を描いた映画。自分もこの記事を書きながら亡き父を思い出しておりましたよ。

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