"悪童は昨日も今日も明日も走る"『クローサー・トゥ・ザ・エッジ』
マン島TTレースを描いたドキュメンタリー。
皆川亮二の漫画『D-LIVE!!』にサイドカーレースが登場したり、森雅裕『マン島物語』などずばりバイク小説にもなっていたりする実際のレースの模様を描く。
メインでスポットが当たっているのはガイ・マーティンというレーサー。 なんとなく主役にしたくなるのがわかる個性的なキャラ。もじゃもじゃしたもみ上げと、マスコミや会見が嫌いでパスなしでウロウロしてしまう悪童。でもレースへの取り組みは真剣そのもので、他の私生活はないも同然の男。ややオタク的なコミュ障という位置づけだが、ファンの人気は大きい。
UFCにおけるニック・ディアスもこういうキャラだよね〜。そしてこのガイ・マーティン、未だに二位が最高で優勝はないのだが、そのあたりもGSPに永遠に勝てないニックに似ておるよね。
レイトショーに行ったのだが、普段のその劇場のことを思えばなかなかの混み具合。明らかにいつもの客層と違う。これはバイクファンか、レースファンか……。後ろに座ってた2人組がコースの話などしていて、やっぱり好きな人たちが来ているのだよね。
時速200キロ以上で街中や普通の道路を爆走するレースで、100年の歴史の中で230人ぐらい死者が出ている、という話。ということは、年に二人か……。二週間の間にサイドカーなど他種目もある中、バイクレースはコースやマシンを変えて五回あり、先のガイなども目指す究極の目標は、その五回すべてに勝つことだ、と語られる。今まで四回勝った選手はいるものの、前人未到の領域である。
冒頭からえらいスピードの映像が映り、これはバイクの車載カメラのものだそうで、臨場感もすごい。映画の後半、レースが始まったら隣の席のあんちゃんは、完全に身を乗り出していたわ……。ちなみに上映は2Dだったが、実は3D映画であったので、そちらのバージョンでも見てみたかったな。
そんな中、最初のレースで果敢に攻めたガイ・マーティンだが、ピットエリア内のスピード違反でペナルティを受け、四位に沈む。ぶつくさ言う悪童! 続くレースでも順位は上がらず、最高二位は変わらず。そして四つ目のレースではついに死者が……。
四十代の選手もいて、さすがにピークは過ぎるものの、まだ参加はできるし「レース」という麻薬、そのスリルに抗えない、取り憑かれていることが語られる。死んだレーサーの妻のインタビューなどもあり、生と死の狭間にいるレーサーたちの日常と喜び、家族にもたらした「幸福」が胸に迫る……。
ここまでのレース、イアン・ハッチンソンという選手がまさかの四連勝を記録し、ワンシーズンの勝ち星ではタイ記録、連勝では初というすでに凄まじい記録を作り(実際、一勝するだけでも偉業)、残るはまさかの五連勝を狙うのみという状況。しかしガイを初め、未だに一勝もできていない有力選手らが勝利に飢えてその阻止を目論む。そして最後のシニアTTが幕を開ける……。
スポーツものだから当然だが、スポ根映画のような燃える展開になってきて、最強の男の完全優勝を悪童主人公は阻止できるのか、というクライマックスに突入する。これは熱い! どんな展開が待っているのか……と大興奮したのだが、これはあくまでも、実際に2010年に行われたレースの映像を使ったドキュメンタリーですんで……いやあ……現実の重さに打ちのめされたわ……。予定調和なんてないんだね……。
何かと危険なマン島レースの面白さと特色、そのスリルに取り憑かれたレーサーたちの死生観をがっちり凝縮した面白いドキュメンタリー。素晴らしかった。一回、生で見てみたいなあ。街中をぶっちぎるため、過去には観客の死者も出てますが……。

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