"何もなくてもヒーローです"『アイアンマン3』(ネタバレ)
シリーズ完結編?
謎のテロ組織「マンダリン」によって世界が危機にさらされ、米軍が「ウォーマシン」改め「アイアン・パトリオット」で対抗しようとしていたその頃。NY襲撃以後、自分の邸宅にこもるトニー・スタークは、新たなスーツの開発に余念がなかった。「マーク42」……分解し遠隔操作で稼働する最新スーツ。スタークを最大の敵と睨む「マンダリン」が彼の周囲にも魔の手を伸ばすのに対し、挑戦を受け入れたスタークだったが……。
一応三部作のラスト、ということになるのかな? でも『アベンジャーズ2』も控えてるし、だから何なのという気がしないでもないところ。
さて、もう社長もやめてしまい、ただの金持ちとして引きこもってスーツ作りに励んでいるトニー・スタークさん。『アベンジャーズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120819/1345351121)のラストで宇宙に飛び出して死にかけたことが結構ショックであったらしく、PTSDを患ってしまった上に、スーツ作りに依存しているような状態。
演ずるロバート・ダウニー・Jrは薬物依存から詠春拳習って立ち直った人であるが、今作のトニーもそれを容易に想起させるような設定になっていると言える。さらに公開前のインタビューで「もう50歳だし、撮影中に足も怪我したし、ギャラはすごいし……」と、肥大化するイメージとのギャップと体力の限界を感じさせるようなコメント。
社長とヒーローの兼業というハードさから逃れたこともあって、今回はすっかり等身大の人のイメージで固まってしまった。さらに、アクションの設計からして、生身のシーンが多い多い。パーツごとに分離して独立して貼りつくタイプ42の設計が、それを強調する。
フル装備シーンがかつてなく少なく、スーツのみで稼働するシーンの方が多いぐらい。顔出しで事件現場をウロウロして捜査するあたりは『ホームズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120331/1333159527)と区別がつかない。生身のただの人間でPTSD持ちとなったトニーさん、もはや社長でもプレイボーイでもなく、一人の女であるポッツさんとだけ付き合ってるので彼女が弱点になってしまった、あまりに脆弱な存在だ。
意図的な演出で「スーツ」と自己を分離し、脆弱な人間に過ぎないトニー・スターク像を描く今作。『2』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100617/1276701942)では身体に毒素が回って死んでしまうかも……という危機が描かれたが、単にそりゃあテクノロジーの問題だろうという話で、技術的解決の過程を見せないまま父子関係と共になんとなく解消しちゃうあたりが面白くなかった。設定の重さと見せ方の軽さの乖離が甚だしかったですね。今回のパニック症候群はそこまで重たいものではなく、肝心な戦闘中にいきなり発症したりしない……んだけど、そのせいかあまり作劇には深く絡めなかった。途中で設定ごとどこかへ消えたかのような……。そもそも『アベンジャーズ』由来の話だから、今回の「マンダリン」との対決と全然関係ないしな。
対して歯並びの悪い非モテで、かつてのトニー・スターク社長に歯牙にもかけられなかった男ガイ・ピアースが、世界を意のままに動かす「マンダリン」という仮面を被り、アイアンマンスーツに匹敵する力を持つマッチョボディを手に入れてムキムキのイケメンとして挑戦してくる。
共に脆弱な男の仮面であるアイアンマンスーツとマンダリンの対比として、トニーが脱スーツに向かうのに対し、見た目は生身でありながら反比例するように強靭化していくキリアンの姿が面白い。
しかしながら、「私がこの悪を生んだ」と言ってるのは、武器商人時代にどんだけひどいことをやらかしたという話かと思いきや、屋上に放置したから、というネチネチした話であるあたり、キン肉マンとスーパーフェニックスの関係を思い起こさせるスケールの小さな話であったな。取り合われたポッツさんが高いところから落っこちるあたりも似てないか……。骨子が男と男のちっぽけな張り合いになってるので、自然と閉じた話になってスケールもふくらんでいかないのも、そこに収束させるためなのだよね。シールドどころか、アメリカ軍の戦力はアイアン・パトリオットしかないのか、というぐらいに他が絡んで来ないあたりも気になるところ。
三作通して観ると、武器開発で世界を牛耳り、金も女も欲しいままにしてきた男が、それらを一つ一つ捨て、最後にスーツまでも捨てて生まれ変わる、というお話であったということで、最後は会社も家もスーツもリアクターさえもなくなって、イチパンピーとなって旅立つトニー・スタークの姿が……。まあしかしなんだろう、話の筋としては通っていて、一人の男の人生航路としてはなかなか良く出来ている……んだが、どうにもすっきりしないものが残る。
それは結局のところ、大天才で大金持ちで大企業の社長で酒もクスリも女もやり放題で、その特権を使ってヒャッハーしまくってて、それなのに空飛ぶスーツを着て世界を救っちゃうヒーローでもある、という、単にそれ羨ましすぎるやん!という存在であった人が、「いや、もう何かそんな生活に疲れちゃった……普通の人になる」とか言い出してそれを放り出して行く「えっ、えええっ、も、もったいなくない!? 普通つまんなくない!?」という感覚なんであろうか。トニー・スタークには、無邪気に「かっこいい! 羨ましい!」と崇め奉れる「雲の上の存在」であってほしいと思っていたのが、所詮は嫁の尻に敷かれるただの人に過ぎなかったというガッカリ感……。
これは、巨大な富や権力、武力までもが一個人に集中して行く新自由主義へのアンチテーゼであるのかもしれないな。もはやアメリカが仮想敵とするテロでさえも、しょうもないマッチョ男の復讐心と企業の金儲けのための仮面に過ぎない。そんな「敵なき世界」において、「宇宙人」というあり得ない敵に対してようやく集合体としてのヒーローを肯定した『アベンジャーズ』との整合性を取るためには、個々人は巨大であってはならず、平時においてはその力を捨て去る勇気が必要である、ということであり、マッチョ野郎に恨まれないためには大金持ちであることも、プレイボーイであることも否定されなければならないのだ! だけど、だけどそれでも「ヒーロー」であることは出来るし、「アイアンマン」であることも出来る。ド田舎に着地して、今まで交流を持たなかった田舎もんのファンと戯れるあたりも良かったですね。
ガイ・ピアースも『X-MEN ファースト・ジェネレーション』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110612/1307871121)のケビン・ベーコンばりの怪演で面白かったね。このマッチョぶりは『メメント』以来か? ベン・キングズレーの舞台俳優ネタはまあ面白かったが、舞台経験あるなら、あんだけテレビに映ってたら正体がばれていると思う……。そしてパルトロウことポッツさんがスーツ作りに文句つけるあたり、優しかった「彼女」が結婚して「妻」になったら急に口出ししまくるようになる、という構図を思い起こして笑ってしまったところである。ま、会社まで全部任せちゃって引きこもって遊んでるんだから、しようがないわなあ。凡人になるってことは、そういうことまでも受け入れる、ということなのである、という、妙なリアルさをヒシヒシと感じたところであった。
観てる間は面白くて、色々考えていたらどんどんつまらなくなってきて、一周回って戻ってきたらまた面白かったような気がする変な映画であった。ヒーローものは真面目に終わらせようとすると大変だっつうこともあるね。ファンはヒーローがどんだけ苦しくても辛くても、永遠に戦い続けて欲しかったりするわけだからなあ。
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