"血は水よりも"『シャドー・ダンサー』


 アイルランド映画!


 IRAの一員であるコレットは、地下鉄の爆破未遂事件に関与した事でMI5に逮捕され、そこで究極の選択を迫られる。息子を残して裁判にかけられるか、あるいは家族も加わっているIRAの情報を売り渡すか……。息子を選んだコレットは、弟から聞いた襲撃作戦の情報を、IRAの捜査官マックに伝える。だがMI5上層部は、もう一人の内通者を抱えていた……。


 家族ぐるみでIRAに参加している一家の長女が、イギリスの諜報機関MI5に逮捕され、息子の将来を人質に取られ二重スパイとなる……んだけど、どうも雲行きが怪しい。こそこそと計画を漏らすものの今にも見つかりそうで危なっかしく、そもそも一回逮捕されてなぜか釈放されてる時点で、IRAの上層部からは怪しいと目をつけられてしまっている。これは早晩始末されるのでは……。
 彼女を逮捕してスパイに仕立て上げたのは、イギリスの顔の濃い男ことクライヴ・オーウェン捜査官。しかし、本人はそうやって本気で情報を取ろうとしてたのだが、どうも上層部には別の思惑があるらしいことが薄々わかってくる……。


 途中、主人公からの通報によって計画が漏れ、それによって構成員の一人が射殺される。その葬儀のシーンで、IRAの幹部なども訪れ、彼を兵士として、英雄として国の旗の下に葬ろうとするのだが、一家ぐるみで参加している家族が多く集まり、組織自体を覆った家族的な濃いつながりを感じさせて印象的。だが、そうして家族関係を軸につながっている組織の内部で、より強い結びつきとして、やはり「実の家族」があるというのが皮肉なところ。家族を解体するのではなく、形をそのままに取り込んでいるがゆえのこと。
 主人公、そしてタイトルの「シャドー・ダンサー」もまた、それら組織の関係よりも、自らの家族を選んだがゆえの行動を取り続ける。


 さて、主人公を手駒にしたはずのクライヴ・オーウェンだが、上層部が彼女を切り捨てるつもりなのを知り、それに同調できなくなってしまう! 人妻の色香に迷ったか?と同僚のジリアン・アンダーソンにばっさりやられて、返す言葉もない。上層部が以前からすでに侵入させていた「シャドー・ダンサー」を守るためには、彼女に死んでもらわねばならない。ならば彼女を守る方法は……。
 一時はジェームズ・ボンド役に起用なんていう噂もあったクライヴ・オーウェンの、裏007映画として観るとちょっと面白いかも知れない。所属してるのもMI5ということで、愛に目覚め彼女を逃がそうとした彼はもしかして「オレ、今007?」とか思ったかもなあ(思ってないよ!)。主人公をボンドガールになぞらえたりしてね。このあたりの情けなさはピカイチで、プロになり切れなかった男の悲哀と、彼女を道具として扱い、何も理解しないままで、「俺がリスクを冒してまで助けてやるんだ」という目線を捨てきれなかった傲慢がかかる結末をもたらすあたり、なかなか染みる。もっと非モテ風の男ならより痛々しい話になったかもだが、彼ぐらいの格好良さでちょうど良かったね。
 

 衝撃のラスト、とかいう宣伝は正直滑ってて、「シャドー・ダンサー」の正体についてはまあ筋は通っているし、上気の家族関係も効いて来るものの、まあ地味な結末ですよ。悪くはないんだが、もう一つパンチに欠ける映画でした。