"広がる世界、終わらない戦い"『ドラゴンボールZ 神と神』


 十数年ぶりにドラゴンボールの劇場版!


 魔人ブウとの激闘より数年。長き眠りから、破壊の神ビルスが目覚める。眠りにつくまえに宇宙を荒らし回っていたサイヤ人が滅び、フリーザが倒されたことをしったビルスは、自らの予知夢で見た「超サイヤ人ゴッド」を求め、悟空とベジータのいる地球を目指す。その頃、界王星で修行していた悟空は、界王と界王神が密談していたビルスの話を盗み聞き、興味を持ってしまう……。


 以前の劇場版は、劇場で二本、後もテレビとかDVDとかでだいたい観ているかな……。お気に入りはメタルクウラ戦(『100億パワーの戦士たち』)。当時の映画はだいたい2〜3本立てで、ドラゴンボール単品では45〜70分ぐらい。今回の85分というのは大長編ですよ。過去の、開始5分で敵登場→40分戦う、みたいなのとは、さすがに一線を画す描き込みがなされている。


 さて、今回は鳥山明がストーリーにもキャラクターデザインにも全面的に噛んでいる、ということ。時系列的には魔人ブウ編の後になるので、連載終盤に「もうやる気がないのではないか」とも囁かれた、殺伐さの薄れたどこかのんきなテイストが、そのまま今作にも継承されている。これらのテイストは、連載終了後に発表された単発作品とも共通するところで、「現在の鳥山明」の作家性と言えるのではないか。
 史上最強の敵が登場しているにも関わらず、中盤はほぼ飯を食ってるだけ、という展開や、酔っぱらった悟飯が流れ弾を嫁にぶち当てるという不謹慎スレスレのギャグ、さらに破壊するぞ破壊するぞとネタにされる地球という存在の異様な軽さ……。これはむしろドラゴンボール末期よりも、『Dr.スランプ』さえ思い起こさせるところだ。
 思えば原作におけるピッコロ大魔王登場からセル編までが、むしろ作者本来のテイストからすると異質であったのかもしれないし、テレビや劇場版アニメにおける「放映、上映時間の大半を殴り合っている」という構成も歪なものだった。ただ、その時期にジャンプの部数やアニメの視聴率含め、最も露出が多かったために、多くの人に強く印象に残っているのは殺伐としたバトル中心の、強さ談義が先走る『ドラゴンボール』なのかもしれない。


 そんな各々の抱くイメージをすべて満たすような『ドラゴンボール』は、決して作られることはないのであろうなあ、と思いつつ今作。新登場の超サイヤ人ゴッドと、それが途中で消えてしまうという展開。さらにラスト近くで明かされる、最強の上にはまだ上がいて、さらにはまだ別の宇宙がいくつもある、という設定を見れば、世界を閉じるのではなく今後も広げていこうという意思が見て取れる。誰が最強である、とかいう閉じた議論に背を向けて、強い奴はまだまだいくらでもいるし、歳を取れば取るほど戦闘マニアとして純化していく主人公孫悟空の「負けない」ための果てしない戦いは永遠に続くのだ……というテーゼ。それはフリーザ編での完結を許されず、連載が終了して長い年月が経つにも関わらず、未だにコンテンツとして存続し続けている『ドラゴンボール』という作品の歴史的経緯を振り返れば当然のことであるような気がするね。作者一人がコントロールする「物語」として閉じるのではなく、ファン一人一人が没入する「世界」として広がることを希求された、数少ないコンテンツの一つに『ドラゴンボール』もなったのだ、と今作で改めて実感した。さて、将来を見据えれば『スター・ウォーズ』のように権利が売りに出されたり、『ドラえもん』のように作者や声優が死してなお存続し続ける、という未来があり得るわけだが、果たして『ドラゴンボール』はどこまで行くことだろうね。


 え〜、本編についてですが、まあそうしたテイストは理解しつつも、さすがにちょっと中盤は長かったわ〜。まんべんないファンサービスって、『アベンジャーズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120819/1345351121)もそうだったんだが、テンポをぶった切るんだよな。やっぱり構成としておかしいとは思いつつも、延々殴り合ってる劇場版がドラゴンボールらしいような気がしてしまったのを読み解いた結果が上記の文なんですが……。まあおかげで、久しぶりに動いてる18号が見られたから良しとしたい。
 ベジータはもはや「プライドを捨てるカッコ良さ」まで手に入れてしまったのか……衝撃的だ! 噛ませとして壮絶に散るのがパターンであったが、今回は一味違うぞ! やはり背景になってしまった他のキャラと違ってさすがの存在感で、悟空をナンバーワンと認めたことで、逆にナンバーツーの地位を固めたのだなあ(出番の多さ的な意味で)。
 久々の映画ということで、様子見の意味も兼ねてか、宣伝ほどは本編に金がかかってなかったような気がしたのもちょっとマイナス。微妙に絵が動いていないし、背景と一致していないような……。ただ来年が30周年になるのかな? 今作のヒットを受けて、またもう一本ぐらい作られるんじゃないかな、という気がするな。その時は延々殴り合う映画をやっぱり見たいような……。

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