"ぬいぐるみのクマなんだクマ〜"『TED』


 クマが動く! しゃべる!


 友達のいない8歳の少年ジョンは、クリスマスプレゼントのテディベアと本当の友達になりたい、と神様にお願いする。願いはあっさりとかない、テッドは生きたぬいぐるみとなって彼の友達になった。めでたしめでたし……それから27年。ジョンは会社員になり、テッドも見た目は変わらないまま、中身だけおっさんになってしまっていた……!


 『ザ・ファイター』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110331/1301579597)で破天荒なお兄ちゃんに苦労させられたマーク・ウォールバーグだったが、今回はぬいぐるみのクマ! 子供が主役のおとぎ話のフォーマットで始まり、まるでエンドロールのようなオープニングクレジットから27年後へ……!


 いやはや、聞きしに勝る下品さで大いに楽しんだ。ビールとハッパでラリった後は映画鑑賞! 『フラッシュ・ゴードン』に大熱狂! 映画クラスタ的には人ごとではないよ。『フラッシュ・ゴードン』最高だ! まさか本物まで出て来るとは……。ライブフィルムだけど皇帝ももちろん登場だ! 喧嘩シーン、カーチェイスで、モコモコしたものがリアルに動き回り、ああこれこそ現代、技術の進歩したかいがあったものだ、という気分になった。最新技術はゴラムの顔芸とテッドのアクションのためにあったのだ!


 いつまでも「少年の心」(笑)を捨てられないマーク・ウォールバーグとテッドだが、ウォールバーグと付き合ってるミラ・クニスはそこに不満を覚える……。会社で同僚に「クマが原因!」と言われるが、これが的を射ているようで微妙にずれていて、追い出せば全て解決、というような都合のいい展開はあり得ないのだな。二十七年来の友人関係はそんな軽いものではないし、他人から見れば害悪で、彼女から見れば邪魔者でも、主人公自身の内面に良きものも多く生み出している。
 ミラ・クニスという人は見た目は小さいんだが、豪快さと懐の深さを併せ持つ役をよくやっている。『ステイ・フレンズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111015/1318689464)しかり、『ブラック・スワン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110512/1305173515)でさえ実はそうだったからな。昨日今日付き合い出したわけでなく、もう四年目。クマとの付き合いも気づけば結構長い……。だからこそ、ウォールバーグとクマの関係が深いことも知っているし、上辺だけのものでないこともわかっている。真面目で仕事もできて思いやりもあって……って、何だこの理想的なキャラ。逆にこんないい彼女がいるのに、やっぱり離れられないクマとの関係の根深さも際立つ。
 「クマのぬいぐるみ」と聞くと、「捨てろよ」「燃やせよ」と言いたくなるが、生身の人間だったらそうはいかないし、事は価値観の尊重にも絡む。男友達との幼馴染関係をクマを隠喩に使って軽くすることでハードルを下げ、「こいつ邪魔だよ」と思いやすくさせるあたり、まさに踏み絵だ。
 ウォールバーグの職業がレンタカー会社の受付、というあたりも絶妙。食うには困らんけど、指輪や高級レストランには背伸びが必要だし、より良い企業に勤めている身からしたら、「社会的地位」が低い。そんなことも「関係ない」と言い放つミラ・クニス、マジかっけえ、という感じだが、コンプレックス抱いてる男子や、男に稼ぎや地位を求めてる女子からしたら、色々と痛い設定だ。ここらへん、実は『ブルー・バレンタイン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110504/1304412562)並みに考え抜かれて配置されてるんじゃないの。地位と稼ぎがあっても中身クソ野郎の上司はダメに決まってて、我らがヒロインはそんなものには踊らされない。ありもしない理想を追っかけるのじゃなく、目の前のクマ好きの男を、自分より付き合いの深いクマのことも含めて、ちゃんと自分で見て判断しようとしている。


 当然、そこまでしてくれる女が他にいるか、手放していいのか馬鹿者!ということになるわけなんだが、相変わらず弟体質で甘えの強い主人公は、いまいちそれがわかっていない。
 で、実はクマこそが、薄々ながらそこに気づいているのだな。このクマは快楽主義で、ほんとに女が好きなんだよね。同じセスでも『50/50』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111214/1323775719)のセス・ローゲンみたいな薄汚いミソジニーがなくて、「昔の女」ともいい関係を保っていたりする。もちろんそれがノラ・ジョーンズだったりして、戯画的に誇張されてるわけだが、事象としては珍しいことじゃない。クマだけどおっさんで、主人公ともどもなかなか大人になれないんだけれども、でも実は精神年齢が低いわけではない。男の子の話じゃなくて、男の話。大切なものが何かぐらい、わかっている。そんなものは、みんな映画に教えてもらっているんだよ。わかってるけど、遊んでいたいだけでさ!


 恋愛の危機と同時にテッドにもストーカーが襲いかかり、事態はクライマックスへ。ここでもぬいぐるみだから警察はあてにならないし、なんか簡単に破かれたり、ただの映画ではない緊迫感が立ちこめる。ジョヴァンニ・リビジが出てるとは知らなかったが、相変わらず気持ち悪い(褒めてます)人だ……。
 リアルとギャグとファンタジーの間隙を猛スピードで突っ切るような強引さでオチまで駆け抜ける。ラストの後日談もまったく意味が分からないし、締めに使われた人たちはいい迷惑だが、この全編に渡る不謹慎さも最高だ。そんな中、三者の関係にもちゃんとオチをつけて、映画は大ヒットをひっさげて続編に続く。『ザ・ファイター』より先にこっちの続編が出来そうだな〜。次は当然、生まれたガキに「テッドおじさん」がいらんことを教えまくる話だよな!