"未来を幻視した時"『LOOPER』(ネタバレ)


 ジョセフ・ゴードン・レヴィット主演のSF映画!


 2044年現在……。タイムトラベルによって30年後から送り込まれて来る人間を待ち受けて射殺する「ルーパー」と呼ばれる殺し屋たち。標的の顔も正体も知らないまま、ただ殺人を続けるルーパーの一人であるジョーは、いつか「ループが閉じた時」、パリへと渡ることを夢見ていた。ループが閉じる……それは、30年後から送られて来る未来の自分を射殺すること。果たして、未来では「レインメーカー」と呼ばれる謎の犯罪王が、次々とルーパーたちを過去に送っているという。そして、ついにその時がやってくるのだが……。


 相変わらず緊張感のない顔をしたJGLと、ブルース・ウィリスが同一人物、ということで、これはドタバタなSFアクションだろう、と思ってましたが、いい意味で予想を裏切られましたね。
 近未来2044年が舞台ということだが、バイクが浮いてて銃が軽いぐらいで、あまり進歩してないんだよね。都市と田舎がすっぱりと分断されているようなアメリカの風景はまったく変わっておらず。都市での生活をしながら荒野へ「仕事」に行くルーパー。
 作劇的に、未来から自分が送り込まれて来る、というのは予想外の事態なのかと思っていたら、これも彼らの仕事には織り込み済みのことだというのが序盤で明かされる。こんなに設定を明かしちゃうということは、これらはメインのストーリーではないのか、どうなっちゃうんだ、と思っていたら、果たして展開は想像を超えた方向へ!


 未来からブルース・ウィリス=「未来のジョー」がやってきてからは、視点が二人を行き来し、文字通り「主役」が入れ替わる。現代ジョーの立場で「あの野郎生かしておけねえ!」と思ってみたり、未来ジョーの視点で「我ながら頼りねえなあ」と思ってみたり。すれ違い展開が続くかと思いきや、正面きっての「会談」がもたれて決定的な対立となったりするあたり、これは「コミニュケーションの失敗」の話ではなく「価値観の違い」の話になっていく。


 未来ジョーはどんな殺伐たる人生を歩んで来たのかと思ってたら、結婚して「愛こそすべて」人間に変わっておった! 途中の「首尾よくループを閉じた未来」の回想が面白く、冒頭から生え際を気にしていたJGLがどんどん髪の毛薄くなっていく展開には吹いたね。結婚までは愛なんて知るか〜と殺伐とした人生を送っていたことも合わせて描かれるので、こりゃあ現在ジョーに愛がどうとか言ってもだめだろな、ということも伝わって来る。


 このあたり、段々と愛のために頑張ってる未来ジョーの言う事の方が正しいように思えて来て、「現在ジョーは人生の先輩の言う事を聞きなさいよ」と思ってたのだが、子供殺しを始めるあたりでまたそれが逆転するんだね。「主役」と同時に「為すべき正しいこと」もまた入れ替わっていく。


 中盤から急激に展開がスローになり、ここに来て新キャラが登場するという構成。未来でループを閉じて回っていると言われる犯罪王「レインメーカー」の存在と、その正体。展開の止まりっぷりに驚きつつも、じわじわと全体像が見えて来るあたり、そしてまさに「雨が降る」その一瞬に全てがつながる感覚を堪能しましたよ。


 タイムパラドックス設定は、深く突っ込むとややこしいから、ほどほどのところで押さえたような感じ。過去が変われば未来ジョーの「今」も変わる。途中、妻の記憶が揺らぐようなシーンもあったが、クライマックス、憑かれたように突き進むあたりの彼は、もはや自分が何のために戦っているのかもわからなくなり、あるいは歴史をループさせるためだけの時間の奴隷的存在になっていたのかもしれないね。そんなことも深読みしていくと面白い。
 そして、愛ゆえに人は変われるという、未来ジョーが、あるいはエミリー・ブラント演ずる「母」が信ずるテーゼ。他者への愛に目覚め生まれ変わった男が、その自分を変えた愛を貫こうとし、かつての自分が同じく人は変われると気づいたことによって敗北する結末は、実に皮肉だね。
 また、未来を見たわけでもない現在ジョーが、「レインメーカー」の未来を幻視する展開も象徴的だ。人は如何様にも変われるし、その可能性に思いを至らせることで結果として未来を見ることもできる。そして選択の結果として、消滅する未来もある。SFだから「未来」が具象化しているけれど、それがなく未来を知らずとも人はより良き選択肢を選べる、ということを作り手は信じ、伝えたいのではなかろうか。


 JGLはメイクやら口元の演技やらで、ブルース・ウィリスにかなり似せていたね。そしてそのブルース・ウィリス演じる未来ジョーのキャラ自体を、やたらと銃を撃ちまくるブルース・ウィリスの定番キャラにして演じやすく、印象づけやすくしているわけだ。
雑なところと、小ネタを突っ込んで妙に凝ったところのバランスが良くて、役者陣も好演。エミリー・ブラントもうまくうらぶれた感じを出してて、鮭映画の浅薄さを拭い去ってくれました。ポール・ダノは可哀想だったな〜。あとコンドル役の人も面白かった。クライマックスの突撃も、いったい何をしにきたのか、という感じで……(笑)。


 なかなか楽しめる映画でした。この監督も今後注目だな〜。

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