"逃避とパワハラの果てに"『やがて哀しき復讐者』

　香港ノワールフェス、一本目！

　地上げに精を出す不動産会社社長のウォンの娘、デイジーが行方不明になり、彼女自身を撮影した身代金要求の動画が送りつけられて来る。だが、父に反抗しドラッグに溺れるデイジーの普段の素行から、ウォンは狂言誘拐を疑い、警察に届けない。代わりにウォンの片腕のチュウが、かつての黒社会との関わりを活かして独自に捜査をするのだが……。

　主役のアンソニー・ウォン演じるキャラがとにかくダメ！息子と娘には強権的で怒鳴ってばかり、元々の商売が地上げ屋であくどい上に部下にはパワハラ、死別した妻に思いを残してて新しい奥さんにも内心では心を開いてないという、ちょっと「不器用ですから」を通り越してしまっている人。娘の誘拐でも「狂言では？」と疑ってしまい、親として終わっている感がありあり。グレてドラッグに走ってる娘にいらつく気持ちもわかるが、明らかに向き合えてないしおまえのせいだろ！と突っ込まざるを得ない。

　実質的にダブル主演なリッチー・レンは、その社長に前科があるのに拾ってもらった過去があり、自分も息子とうまくいっていない境遇を重ね合わせたり、誘拐された娘にもちょっと懐かれていたことがあったりで、彼を見捨てられないのだね。文字通り命さえ捨てる無償の忠誠心でもって尽くす。しかしこのリッチー・レンの過保護っぷりが、アンソニー・ウォン社長の変化を妨げているようにも思える。自ら調べ、娘のたどった道と本当の姿を知るべきなのに、社長さんは復讐にしろ調査にしろあとから報告を聞いてばっかり。やることと言えば……おまえ、何回葬式開いてるんだよ！

　そんな社長を余所にリッチー・レンが最初から最後まで、自分の息子との面会もこなしつつ（全然相手にされてなくて可哀想）八面六臂の大活躍。社長も一回下積みからやり直した方がいいと思うよ！　冒頭の娘の死から始まるところから、時折時系列を巻き戻しつつ、サスペンスはオーソドックスに進む。上記の「社長へ報告！」形式を取っているので、少しずつ事件の謎も解き明かされて行くから展開も至極わかりやすい。
　「因果応報」という言葉をベースに、復讐こそ成し遂げられるものの事態を招いたのは結局自分ではないか、そして復讐の果てに待つものもまたさらなる悲劇ではないか、ということを問いかける。その果てにやっと自らを省みる……のだけど、さすがに遅かりし、という感あり。実際に手を汚したリッチー・レンが去っていくあたりも理不尽だよね。

　まあまあ出来としては悪くないのだが、ちょっと設定がすべってる感もあり。主犯格の正体が不明瞭なのは、恨み買い過ぎでもう誰が誰やらわかっていないということかと解釈したがどうなのだろう。三本の内の一本としてはまずまず楽しめたが、これ一本ならガックリだったなあ。