"楽しく生きるのは難しい"『最強のふたり』


 フランス映画!


 首から下が麻痺した大富豪フィリップ。彼の介護者を募集する面接に現れた男ドリスの目的は、面接を受けたと言う証明をもらい、失業保険を得る事。だが、多数の介護経験者を差し置いて、フィリップは彼を雇ってしまう。一ヶ月の試用期間、初めて経験する仕事。困惑するドリスだが、持ち前のマイペースぶりを発揮して……。


 初日のサービスデーに行ったらパンパンの満席で、知名度のある俳優も出ていないし、それほど宣伝を見たわけでもないしで、大ヒットぶりに驚いた。


 時系列的にはラスト近くになるオープニング、ろくに言葉もかわさないが、ちょっとした仕草や慣用句だけで会話が通じ、息のあった関係であることがわかる。ここからすでに面白く、さて、この関係になった経緯とは?という興味でまずは引っ張る。
 この手の首から下の麻痺の話というと『ボーン・コレクター』という傑作(映画はどうってことないけど、原作は面白いよ!)があるが、あの主人公も身近にいる人にはやっぱり「変に気を遣いすぎない」ということを重要視してて、特にプライドの高い人ほどその傾向が顕著なことが語られる。
 このフィリップという人は、根が陽性の人なんだよね。お金持ちで、人生を楽しんでいて、麻痺を背負って奥さんとも死に別れてしまったけど、基本的な姿勢は変わらない。ハリウッド映画のごとく、どん底から一つの出会いをきっかけに人生が丸ごと変わった!という話ではない。だけれども小さい事に過ぎないというわけではまったくなく、ちょっとした出会いによる小さな意識の変化こそがたくさんの楽しい事をさらに生み出す契機になるし、小さな楽しい事の積み重ねがかけがえのない関係につながっていくということを描いている。障害があっても、周囲の支え次第で実りある人生を送ることができるし、それで一生変わらないのではなく大きな変化を迎えることだってできる。


 危ないやん、怪我したらどうすんの、これイラっとくるんじゃないの、と思うシーンも色々とあるんだが、それこそ「何でも出来るからこそ危ない事をしない」健常者の感覚であり、自ら危ないことをやりたくてもできない人の感覚はまた違うのだろう。と言いつつ、自分はドリスとは気が合わないだろうという気はするが(笑)。演ずるオマール・シーは黒人特有の肉体の躍動感が抜群で、これは身体が動かない人との対比。
 そんな彼もまたフィリップとの関係で、壊れかけていた家族とのつながりを取り返すきっかけをつかむ。ここも直接フィリップが何かをどうこうするわけじゃないんだよね。フィリップの娘ちゃんのこともそうだが、互いの家族関係を改善するのはあくまでも本人で、それぞれは意見を言ったり影響を与えるだけ。ホモソーシャル感がありつつも馴れ合い過ぎない関係。でもドリスを自分から送り出しといて落ち込んじゃうフィリップ! そこで「いつもいっしょじゃないけど、でもずっと友達だよ」と現れるドリス! こらっ!


 愛が一番大事で子供もいっぱいいて芸術も大事にしてて、いかにもフランスらしい感覚が満載な映画。最近の大阪市とは対極だな(笑)。
 自分がもしか全身麻痺しちゃったら、絶対にまずすごい車椅子を買おうと妄想していて、今作ではそれが出て来た。時速12キロと言ったら、結構早い! あとはボイスコマンドでネットやテレビ観られるようにしないとな。介護してくれる人もちゃんと自分で面接せねばね。日々を気分良く過ごすことは、人生に取ってとてもとても重要である。

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