"アポはビーバーちゃんを通して"『それでも、愛してる』


 ジョディ・フォスター監督作!


 うつ病を発症して二年、ついに自殺まで試みるようになったウォルター。治癒の見込みはなく、妻からも会社からも諦めの目で見られる日々。だが、あるビーバーのぬいぐるみとの出会いが状況を一変させる。彼を手に付けることで活力が沸き、彼を通してなら会話もできるようになったのだ。懐疑の目で見られる中、久しぶりに出社し、会社も立て直してしまうウォルターだが……。


 邦題からして完全に感動作のような売り方をしてるんだが、そんな手放しに泣けるような作品じゃなく、かなり重いテーマを孕んだ作品。チラシの絵面からしてインパクト絶大で腹を抱えて笑ったんだが、コメディ要素もあるにはあれど、後半は文字通りかなりの鬱展開を迎えることに。


 主人公が鬱発症からすでに二年という状態から始まるので、家族がそれにどう向き合うか、という段階の一つその先が描かれる。病気がいい加減長期化してきた時にどう付き合っていくか? また二年というこの間が絶妙で、もう治りっこないと諦めが入りかけてきたところで、このビーバー登場による劇的な変化が訪れるから、その奇矯さの先に「もしかして」という希望をどうしても見出してしまう。


 ぬいぐるみ好きとしては、ビーバーちゃん可愛いじゃないか、いいじゃないか、固いこと言うなよ、という気になるのだが、地味な治療や投薬が通じず追い込まれてきたところに劇的なファクターが登場する、というハリウッド映画定番の文法から、実は今作は外れていることがじわじわと明らかになっていく。


妻「ビーバーとかありえない! でも良くなってるの? 次男も喜んでるし……」

長男「ビーバーとかありえない! こんなのが父親とか、余計につらい! いなくなってほしい」

次男「ビーバーもお父さんも大好き」


 家族がそれぞれ過激派(長男)、穏健派(次男)、中間派(妻)に分断されるそれぞれの捉え方の違いが面白いし、その捉え方に立場上の願望も強く入り混じっている辺りも絶妙。そして、彼らのその願望こそが主人公を追い詰めるファクターでもあることが浮き彫りにされる。良き夫、いい父親……ビーバーの暗黒面がそれを暴き出す。
 後半の展開にはびっくりしたなあ。ホラーかよ! ジョディ・フォスターはホラー撮ってもいけるんじゃないか。
 息子のパートと並列して進むあたりが重要なのだが、ジェニファー・ローレンスの下りはちょっとずれていないか。筋としては通ってるけど、わざわざガールフレンド自身の人間関係を対比させるよりも、別な描き方がなかったか。少々回りくどい。


 多くのものを失い、結局のところ何も解決はしないのだが、それでも生きて行かなければならないし、家族は再びそこでつながることを選択する。
 あ〜、しかしせっかくだから、ラストもホラーでまとめて欲しかったなあ。あのジェットコースターを下りて、ふと目に入った遊園地の露天に大量のビーバーちゃんが並んでてさ……おまえはオレからは逃れられない!

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