"その扉を開けて"『テイク・シェルター』


 竜巻が襲って来る!(時事ネタ)


 妻と娘と暮らすカーティスは、ある日、自分の住む町を飲み込むような巨大な嵐と竜巻の夢を見る。黄色い雨が降り、次々と人々が狂っていく終末の幻視。夢に悩まされた彼は、自宅の地下室を改造し、シェルターを作り始める。妻のサマンサは、娘の聴覚回復手術を控える中、カーティスの行動に不安を抱くのだが……。


 『サイン』みたいな話かと思ってたが、シャマランぽいテイストは全然なかった。むしろ、病を抱えた人(自分も含め)とどう接しどう向き合うか、ということを問うた、かなり真面目な映画。


 主人公は立て続けに、嵐と黄色い雨が襲って来て人が狂ってしまういや〜な悪夢を見て、その度に飼い犬や同僚、奥さんを忌避するようになる。ローンを抱えた家の庭に地下室があるのを発見し、いずれ来るであろうその嵐を避けるためにシェルターを作り始める。
 このシェルター作りの根拠がほんとに夢だけで、仕事中に遭遇する鳥の群れや雷の音なんかも、他の人には見えない聞こえない完全な幻覚として処理されている。だがシェルターを作る一方で、主人公は自分の感覚がおかしいことも疑っていて、密かに医者に通ったりカウンセリングを受けたりもする。


 悪循環が重なって雪だるま式に状況が悪化して行くのがこの手の作品の一つのパターンだが、今作はそういう展開は取らず、主人公もその妻も、悪いなりに最善を尽くしていく。誤解に関しては話し合うし、通院や共働きも選択肢に入れて忌避しない。ジェシカ・チャスティン演じる奥さんが非常に出来た人で、もちろん人間だから怒ったりいらいらしたりすることもあるが、常に前向きで絶対に旦那を見捨てないんだよね。
 ただ、それでも症状は着実に進行していく。家族や仕事、人間関係、全てへの恐怖、全てからの逃避。耳の聴こえない娘と家庭、ローンを背負って働くストレスと重圧。当たり前のことと言えばおしまいだが、誰もが精神のバランスを崩さずにいられるわけではない。
 そういうストレスの象徴が嵐であり、逃避する先の象徴としてシェルターがある。ローンまで新しく組んでしまって作るとか明らかにやりすぎだが、わかりやすさが逆にそのいっぱいいっぱいさを物語る。
 そんな中、唯一信じられる存在が娘であることは、娘自身が襲って来る夢は決して見ないことでも明らかであり、幾度か挿入される主人公が娘と遊ぶシーンとそれを見守る妻のカットは、娘を縁として夫婦の心がまだつながっていることの証でもある。
 作中で主人公を「見捨てる」きっかけがなかなか与えられないところが何とも示唆的で、「こりゃダメだろ〜!」と観客が思うタイミング(クビ、ぶち切れetc……)で奥さんがガシッと踏みとどまるあたりが印象深い。


 全体に落ちついたテイストで、地味。精神病になった人の主観とその妻からの客観を織り交ぜて、愛の大切さを語るような煽情的な演出もなく、ただそれに立ち向かう方法論と精神論を描く。バイオレントさもなく、絵面的に面白いことは何にも起きない。マイケル・シャノンのぎょろぎょろした目と神経質演技は見事で、おねしょのシーンなどの場面ごとのリアリティも良いね。地味だけど演技と脚本で見せる佳品。


 本筋とは関係ないが、主人公が食事会で暴れちゃうシーンで、スネを一発蹴られただけででうずくまってピクリとも動かない友達は、ちょっと不自然なだったなあ。いくらなんでも弱すぎるだろ!

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