"君の声を聴かせて"『アーティスト』


 今年のアカデミー作品賞映画。


 サイレント映画のスター、ジョージ・ヴァレンテインは、彼の大ファンである女性ペピー・ミラーと劇場の前で出会う。新聞記事になったペピーはエキストラとしてハリウッドのスタジオに潜り込み、そこでジョージと再会。彼のアドバイスでほくろを付け、映画に出るように。折しも、時はサイレント映画からトーキーへの過渡期。サイレントにこだわり自らを「芸術家(アーティスト)」と規定するジョージは、会社を離れ自らサイレント映画を撮ろうとする。一方、ペピーはトーキーでスターへの道を歩み……。


 えっと、20年前ぐらいにバスター・キートン観て以来のサイレント映画。なんだけど、もちろん現代に作られた作品なんだから、完全なるサイレントというわけじゃなく、それなりの仕掛けあり。
 サイレントだから台詞はないんだけど……聴こえるよね(笑)。正確に言うと、画面を見てるだけでだいたいどんなこと言ってるのかはなんとなくわかる。ややこしいとこはテキストが出るけれど、そうじゃない簡単な会話シーンは表情だけで何しゃべってるかわからない。が、映像だけで今起きていること、登場人物同士の関係が無理なく入って来て、どういう会話をしているかも想像で補える。音楽がそのシーンごとの雰囲気を醸成し、理解を助ける。
 サイレント映画の裏側をサイレント映画で描く、ということで、作中でも「大げさな演技」と揶揄されるサイレントにおける演技を普段もやっていることになるから、いったい何が大げさなのか、わけのわからないことになってくる。さらにトーキーも絡んで仕掛けも施して来るものだから、ちょっとしたカオス状態に感じてしまった。いや、サイレントのフォーマットこそなぞっているが、紛れもなく現代の発想であり、主人公が錯乱して幻覚を見るのと相俟って、映画全てが夢魔的な映像になっているような錯覚さえ覚えたよ。


 そんなこんなで感覚的にわけがわからなくなりかけたのと対照的に、お話はオーソドックス。サイレントからトーキーへの過渡期を象徴するかのように起こった名優の凋落と新人の躍進を描く。主演二人の演技が良くて、眺めてるだけで結構楽しい。二人の物語に象徴される映画史の変遷の描写は、まあ教科書に載りそうな逸話というか、それほど悲惨でも毒があるわけでもない話だから、ちょっぴりハラハラしつつも安心して観られる。ドロドロした金の話もなく、サクセスストーリーもトントン拍子、不倫もしない。まあアカデミー賞取るにはちょうどいい具合なんだろうね。芸達者な犬ちゃんの大活躍もいいよ〜。


 後半、もうちょっとカムバックに向けての積み重ねも欲しかったかな。まあしかし、なかなか面白かった。いつも嫌なジジイの印象が強いジェームズ・クロムウェルがいい人だったのが面白かったな〜。しかも主演の人をかついで、どんだけ力持ちなんだ!

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